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2014年04月05日

実存主義的現象学をスポーツ心理学に

スポーツ心理学において客観的な事柄も非常に大事ですが、その場においてアスリートが何を感じているのか、主観的な調査も非常に大事です。この事は多くの研究者によって推奨されてきました。

そして1980年代後半から徐々にアスリートの経験に焦点を当てた質的研究が増加してきました。その中でもここでは実存主義的現象学(existential phenomenology)のフレームワークについて書きたいと思います。




研究者たちがある人について理解したいと思う時、2つの側面からアプローチします。1つが物理的な行動。これは外的に観察する事が出来るもの。もう1つが個人的な経験。これは内側で起こる感情や感覚、つまり外的に見る事ができないものです(Valle, King, & Halling, 1989)。こういった見方はデカルトの二次元主義(主観精神と客観精神)から来ています。




伝統的な科学的手法には3つの基準が必要となります。1.観察可能ーその現象が観察できるものであること。2.計測可能ーその現象が計測できるものであること。3.証明可能ーその現象が他の観察者によって証明できるものであること。この見方では、数量的で、観察できて、証明する事ができる手法こそが科学的手法だという事になります。

しかし、人間現象に興味がある研究者はこれだと非常に研究が制限されたものになる、と主張します。伝統的科学手法では「なぜ」特定の物事が起こるのか、と「なぜ」に執着します。その現象は「どういったものか」とかその現象の「本質は何か」といった事にはあまり着目しません。この問題を解決するために、つまり、人間現象をより詳しく研究するために実存主義的現象学が生まれました


基本となる哲学

実存主義的現象学とは、実存主義と現象学の融合物で、人の経験に対して特定の見方をする事と、その経験を調査するのに特定の様式を使う事が合わさったものです。両方ともが人間現象の更なる理解を目指し、ある人の生活や経験がどのように体験されたのか、一人称で非常に具体的に見ていこうとするものです。

現象学は実存主義に経験を効果的に描写する方法を与えました。現象学はドイツの哲学者、エトムント・フッサール(Edmund Husserl)によって作られデンマークの哲学者、セーレン・キェルケゴール(Soren Kierkegaard)によって提唱された実存主義と合わさっていきます。この混合に大きく影響したのがマルティン・ハイデッガー(Martin Heidegger)です。この混合によって第一人者の経験を研究する方法ができたのです(Giorgi, 1970)。







実存主義的現象学はアスリートが完全に自由な意思を持っていると考えるわけでもなく、全く自由な意思があるとも考えません。その代わり、アスリートは「状況的自由」といって、その状況内にあるフレームワークの中で何かを選択するという自由を持ちます。

スポーツ心理学の研究者は、アスリートにインタビュー形式で自由に話をさせる事(現象学的アプローチ)で、非常に詳細な彼らの主観的経験を研究する事ができるのです。



現象学的なインタビュー方法

他人の経験を描写していくのに有効な現象学のツールとして、インタビューがあります。インタビューとは、2者間で会話をし、そこから出て来る事柄をお互いに明確化していく事です(Pollio et al., 1993)。これによってインタビューされる人がその経験を正確に描写できるだけではなく、その過程において新たな発見を促す効果もあります。

ハンソンとニューバーグは、スポーツ心理学の研究は、自然主義的手法を使って、より主観的な経験を調査すべきだと述べています(1992)。自然主義的手法は人類学から生まれた発見重視のアプローチです。このアプローチでは前もって設定された質問はなく、インタビュー相手の経験をより詳しく知る為のものです。

インタビューは特定の方向性を与える為に最初にされて、その反応によって次の質問が決まっていきます。こういった過程がインタビューずっと続いていきます。この方法によって、インタビュー相手はその経験の専門家という立場を取れて、インタビューをコントロールする事ができます。研究者の責務は話されている事と関係の或る効果的な質問を問う事です。

現象学的インタビューも、自然主義的なインタビューと同じように、会話によって流れていきます。質問はオープンエンドで、特定の経験を第一人称で主観的な形で収集していきます。行動などといったレベルではなく、その人の経験した事、それにどう意味をつけたり解釈したか、などといった事を収集します。ここでもアスリート(インタビュー相手)は専門家という立場でインタビューに臨んでもらいます。


現象学リサーチの手順

それではどのように現象学リサーチを進めていくのか。その手順を見ていこうと思います。

1.研究テーマを決める


2.個人的偏見のチェック

質的研究において、研究者の偏見は大きく結果に影響する可能性があります。ですので、実験前にこういった偏見に気付いておく必要があります。偏見チェック(bracketing interview)はその研究に携わっていない研究者がします。ここで研究テーマに関するインタビューをして、その反応に偏った見方がないかを調査します。ここで何か偏見が見つかれば、それをメモに記入して、本研究のインタビュー中はそれが見えるようにしておきます。こうする事で研究者(インタビュアー)の勝手な解釈を防ぐ事ができます。偏見は人間のすることには必ず出るので、皆無にはできませんが、気付いておく事で抑える事ができます。

3.インタビュー相手が専門家

インタビューではインタビュー相手が専門家だという立場を作ります。トップフィギュアスケーターに関する研究ではインタビューガイドアプローチが使われ、これによって彼らの楽しみやストレス、その対処法が研究されました。このアプローチによって研究テーマへの関連事項を明確にする事ができました。

インタビュー構成については、あまり制約をするとアスリートがありのままの体験を話しにくくなるものの、ある程度のフレームがないと研究と無関係の話で終わってしまいます。なので、研究したいトピックについてインタビュー最初に明確にし、それからアスリートにその時の経験をありのまま話してもらうようにします

たいてい現象学的インタビューは30分から1時間くらいで、「重要なテーマは会話の中で何度も反復される」という前提に立っています。

現象学的インタビューでは最初はオープンエンドの質問で始まります。例えば「あなたがベストパフォーマンスした時の状況、経験された事、どういったものでしたか?」などです。そして後はアスリートの話を中心に話をしていきます。研究者がよく陥りがちなのが、自分の理論を確認したがる事です。そうではなくて、相手の経験をそのまま聴く事を意識してください。そして、一般的で抽象的な反応ではなく、具体的で主観的な情報を集めて下さい。

そして質問は「〜はどんなでしたか?」とか「〜したときどう感じましたか?」という形がよく、「なぜ〜?」という質問は相手に合理化を求め、相手が防衛するかもしれないのであまり使わない方がいいです。


4.データ分析

インタビューが終わったら次はデータを分析します。まずはインタビューの書き起こしを数回読み、全体像を把握します。そして、重要なコメントからメインテーマ(meaning units)を抽出します。そして、それらのテーマをカテゴリー分けしていきます。それができたら全てを俯瞰して、全体構造を把握します。

ここから研究者はそれらデータを解釈していきます。どの解釈フレームワークを使うかで分析方法、目的、研究基準の評価が変わってきます。アスリートの生きた経験を記録するには次の2つの手順が基本です。1.ブラケティング。2.解説的手順。


4ー1.ブラケティング

ブラケティングは偏見チェックと同じように、解釈において研究者の偏見が結果に影響していないかを調べる事です。これには2つの方法があります。1つはインタビュー相手の言葉を使って解釈をすること。もう1つは解釈をグループでする事です。

インタビュー相手の言葉を使って解釈をすると、その選手が体験した生の体験により近い解釈をする事ができます。また、グループ解釈は他の研究者に来てもらい、解釈に偏見がないかをチェックしてもらいます。

こういったプロセスを経る事で、研究者は特定のテーマを見過ごしていたり、特定のテーマに集中し過ぎていたりしている事に気付くことができます。


4ー2.解説的手順

ブラケティングができたら、現象学的なデータをさらに解釈するために、個別的、法則定立的な解釈を使って解説的アプローチをします。個別的解釈はそれぞれのインタビューの書き起こしをケーススタディとして、その個人の経験を詳細に記述していきます。そうすることで、アスリート間の目立った違い等を観察する事ができます。

解説的手順の最後のステップはより法則定石的な記述を作成する事です。これには各インタビューを全てのインタビューと関連づけて解釈する必要があります。そうする事で全体的な相似点を見つける事が出来ます。


5.完成物をインタビュー相手に見せる

できたものをインタビュー相手に見せて、解釈が正確かどうかフィードバックをもらいます。



この研究方法の妥当性

この研究方法で妥当性を持たせる為にはアスリートの第一人者的経験が極めて重要になります。そしてそれを研究者が記述し、その記述したものと読者が同じ者を想像する事ができるかが鍵となります。これは読者が同意するかどうかではなく、読者がその記述を読んで、研究者の意図を理解できるかが問われます。従って、研究者の記述が大事になります。


まとめ

現象的インタビューの主眼は、研究テーマに関するインタビュー相手の世界にあります。こういったインタビューは「経験の中心的テーマ」を理解する事を目的とします。

現象的インタビューの欠点は時間がかかりすぎる事です。また自由なフレームのため、インタビュー相手に研究とは関係の無い事を長々と話される可能性もあります。また、同じインタビューを異なる研究者がすると、異なったデータが出る可能性がある事も挙がります。

しかし、利点はというと、インタビュー相手が専門家だという状況なので、もし研究者の質問が的が外れたものであっても、相手が勝手に修正する事ができます。また、会話という形なので形式張らずにリラックスして答えやすいという事。また、研究方法の柔軟性や主観的経験により詳細に入っていける事、また経験重視の視点でなければ(従来の科学的研究法であれば)見過ごされている点を記録する事ができる、などが挙がります。

個人のメンタルスキルが大きな違いを生むスポーツ心理学において、こういった研究方法が適していると考えるのは自然な事と言えそうです。そして、そういった情報をアスリートやコーチ、その他研究者の間で共有する上でも今後、現象学インタビューによるアプローチがより使われてくると思われます。







参照
"Existential Phenomenology: Emphasizing the Experience of the Athlete in Sport Psychology Research" Gregory A. Dale (英文PDF, Full-text)
posted by ヤス at 06:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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