2016年05月30日

感情に強くつながる古い脳と反芻する新しい脳

思いやり中心療法について学んでいます。参照の映像についてキーポイントを書いていきます。

かなり昔から、心理学に動物の進化論的なアプローチが用いられてきました。フロイトのイドだったり、ユングの原型、ボウルビィの愛着理論など。また認知行動療法(CBT)もその一つです。ベックは人間に本来備わった防衛本能を、闘争・闘争・動員解除だとし、不安症の人は認知がこうした反応を引き起こすと説きました(Beck et al., 1985; Marks, 1987)。例えば、パニック症の人がパニックに陥る所を観察すると、運動神経動作が不規則に作動します。これは爬虫類が危険を感じた時と同じような動きです。


うつ病は、敗北や損失に対処しようとして生まれたメカニズムと関係しています(Beck, 1983, 1987; Gilbert 1984, 1992)。また、人格障害は先天的な仕組みが未発達であったり、過剰発達であること(例えば、協力か競争か、など)と関連しています(Beck, Freeman et al., 1990; Gilbert 1989)。

つまり思いやり中心療法でも生物の進化を考えますが、これは何も新しいことではないのです。他の療法でもそういったことを扱っています。

そして、思いやりは現実を見ることから始まります。

1つ目は、私たち人間は、そうした生物の進化の流れの中で出現した種であるので、私たちの脳は、動機、感情、能力を扱い、その進化が生んだものであり、特定の方法で機能するようにできているのです。つまり、あなたの脳はあなたによって作られたのではなく、生物学的な進化の中でできたものです。

2つ目は、私たちの人生はだいたい25000〜30000日と非常に短いです。また私たちの脳や体は病気にもかかります。どういった質のものに生まれるかは宝くじのようなものです。人類の誰もがこういったことを逃れることはできません。

仏陀の物語にもこういったことを見ることができます。仏陀のお父さんが仏陀が苦労しないようにと裕福な生活を築きます。美味しい食事を、好きな歌を聴きながら毎日優雅に暮らせるという生活でしたが、そこから彼は抜け出て現実の生活とはどういったものかを体験します。そこで、幸せとは何かを見つけるために現実世界で住むことを決めるのです。

3つ目は、私たちがコントロールできない社会的な状況は、私たちの心や、どういった人間になるか、何に価値を置くか、どういった人生を生きるかに大きな影響を与えます。つまり、現在のあなたは、あり得た数多くのあなたの中の1バージョンでしかないのです。もしあなたが違う環境に生まれていたら、ホームレスになっていたかもしれないし、ノーベル賞を受賞していたかもしれない。今のあなたは数多くのあなたのバージョンの中の1つなのです。


つまり、私たちは、自分の脳や感情、自己アイデンティティを自分で選んだのではないということ。人生にはいかに困難を対処するかという場面があります。その中で人はベストを尽くしているということをセラピストは知る必要があります。例えば、タバコを吸ってしまう患者がいたなら、それはその人のせいではないということ。その人の脳や感情が、そのように動いてしまっているということ。しかし、タバコを吸い続けてガンになったら、その被害を被るのはその患者である。つまり、その人のせいではないが、それに対処するのは、その人の責任であるということです。その人のせいではないが、それを変えるための行動をとれるのは、その人だけであるということです。

この視点によって、自分を責めたり、恥だと思うのではなく、どうしたいか、どうなりたいかを考えていくことができます。そして、患者の症状を、病気だとラベルを貼ってしまうのではなく、その患者の独特のプロセスを理解しようと思えます。

人間は爬虫類から進化をしてきましたが、それぞれの時代で脳は何を基に作られたかを考えると、5億年前に爬虫類が現れました。爬虫類の焦点は、領土、恐怖、攻撃、生殖、狩りです。そして、1.2億年前に哺乳類が生まれ、思いやり、群れ、社交、遊び、社会的地位といったものに注目しました。200万年前に人間が現れ、抽象的な思考やアイデンティティ、心、メタ認知といったことができる脳になりました。さらに100万年前になると、拡張された思いやりが発生したのではと言われています。これは考古学的な発見を見てみると、他への思いやりがないと成り立たないような歴史が見られたからだと考えられています。

こういった歴史を経てきた脳だから複雑で、理解するのが非常に難しいのです。
まず古い脳があります。これは怒り、不安、悲しみ、歓喜、性欲といった感情を抱き、闘争、逃走、離脱、関わりといった行動をし、持てる関係性は、性的関係、血いい的関係、愛着、民族(グループ)主義といったものです。

そして、新しい脳があります。この脳は想像や妄想、回想や予想、計画、反芻、考えの統合、自己認識、自己アイデンティティの認識、自己モニターができます。例えば、車を運転をしながら色々なことができるのは統合の良い例です。

そして、社会的な脳があります。この脳は、愛情や思いやりを必要とします。自己の経験と動機に司ります。


この古い脳と新しい脳の間にはネガティブなループが生まれることがあります。例えば、トラに追われて、生き延びたシマウマはその後、比較的短期間で平静な状態に戻ることができます。しかし、人間はそうしたことができません。反芻をするからです。トラに追われたシーンを何度も頭の中で上映します。それだけでは終わりません。さらに「もし2匹のトラに追われたら」とか「明日起きた瞬間にそうだったら」「自分の子供が追われたら」などと考えます。こういった思考がネガティブサイクルを生み出し、感情を呼び起こしていきます。

しかし、逆にこういったイマジネーションをプラスに使うこともできます。そしてそれは肉体に変化をもたらします。わかりやすい例が性的なイマジネーションでしょう。そういった想像は脳の特定の部分を刺激し、体内の脳下垂体を刺激し、ホルモンを分泌します。

従って、トラに追われるネガティブなシーンを回想することで、体内にもそれに対応する動きが出て、ネガティブなループとなります。認知療法ではこういった思考を明確にすることで、ループから出ようと試みます。


参照
https://www.youtube.com/watch?v=qnHuECDlSvE
posted by ヤス at 05:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理学理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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