2023年07月09日

メンタルヘルスに対して他国はどのように対応しているのか

メンタルヘルスは、すべての人の幸福にとって不可欠です。しかし、それを取り巻く態度は国によって異なります。その国特有のメンタルヘルス観は、その国独自の慣習、文化、課題などに影響されます。

例えば、日本では他の国と比べた特徴として、どうでしょうか?精神医療は広く提供されており、その大部分は国民健康保険でカバーされています。個人が負担するのは総費用の3割だけであり、医療機関も自由に選択できる。しかし他の国々と比較して、精神科療養病床の数が多く、脱施設化(メンタル疾患を抱える人をより社会的なアプローチでサポートする)で遅れているとされています。また、精神科療養病床の在院日数は1990年の約500日から2018年には約266日にまで減少したが、精神科入院患者数と在院日数のさらなる削減が求められています。

文化的にはメンタルヘルスの症状に対してスティグマ(偏見)が、精神医療サービスを利用する上での障壁となっていますが、精神医療サービスはより利用されていることも報告されています。


国の文化に適したメンタルヘルス対策
世界的に見て、メンタルヘルスの問題は、疾病負担(その症状によってどれだけ生活などにネガティブな影響があるか)が2番目に高い部類の症状とされています。また、メンタルの治療格差は、低・中所得国で特に大きいという問題もあります。つまり、それらの国でお金をあまり持っていない人は治療が受けられていない、ということです。

そして、メンタル問題へのアプローチは文化に大きく影響を受けています。これはプラスでもあればマイナスでもあります。

中国、日本、韓国などのアジアの文化には、自分の評判、尊厳、名誉を意味する「世間体」という概念があります。人々は、面目を失ったり、家族や地域社会に恥をもたらすことを恐れたりするため、メンタルヘルスの問題で助けを求められなかったり、自分の状態を他人に公表するのを避けるかもしれません。

ナイジェリア、ガーナ、ケニアなどのアフリカの文化では、魔術に対する信仰があり、これはスピリチュアルな力を使って危害や災難をもたらすことを意味します。メンタルの問題を守る人は、魔女や悪霊に取り憑かれていると非難され、家族や地域社会から追放されたりします。

メキシコ、ブラジル、アルゼンチンなどのラテンアメリカの文化には、「家族主義」という価値観があり、これは、家族の忠誠心、連帯感、支援に価値をおきます。だから、メンタルの調子が悪い人は、まず家族に相談をします。

ネイティブアメリカン、オーストラリアのアボリジニ、マオリ族などの先住民の文化では、身体的、精神的、感情的、スピリチュアルな側面を全部含めてその人の健康を見ようとします。メンタルの問題は、地域で知られている伝統的なヒーラーに相談をして、ヒーラーは特定の儀式をしたり、漢方薬を使用することがあります。

以下、国レベルで見ていきましょう。

インド
インドでは95%の治療格差があり、20人に1人しかメンタルに関する治療を受けていないと推定されています。この治療格差に関する調査では、メンタルヘルスに対する意識の低さ、悪い偏見(スティグマ)、差別、専門家の不足、助けを求める意識の低さ、サービス環境の不整備など、複数の要因が関与しています。

インドは国民のメンタルヘルス・ニーズに対処する手段として、国家メンタルヘルス計画(National Mental Health Programme: NMHP)を策定した最初の中低所得国の一つです。NMHPは、メンタルヘルスケアのインフラ整備という重要なニーズに取り組む手段として1982年に開始されました。2003年には、医科大学/総合病院の精神科を改良することと、州立精神病院の近代化が含まれました。

文化的な面では、インドでは精神的な問題はまず家族に相談されます。これで解決されることもあるかもしれませんが、家族内の理解やサポートのレベルが様々であるため、状況が悪化するまで治療を受けることができない場合があります。また、インドでは宗教指導者もよく利用されるサポートだとされます。これは特に農村部や地方都市で見られます。特定の宗教指導者はメンタルヘルス問題が、悪例によるものだ、といった思い込みを他者に強制しようとしますが、信者にとって、こうしたサポートを使わなくするのは難しく、現状ではメンタルヘルスの専門家が並行して治療を提供することが多いようです。

中国
多くの中国人がメンタルヘルスの治療を受けることに対して、いまだに否定的な態度を抱いていると言われます。このせいもあり、一般的な市民がメンタルヘルスの原因、治療法、予防法についてあまり理解していません。一般市民へのメンタルヘルス教育、治療をする人の訓練などがますます必要です。心理療法士など精神科以外のメンタルヘルス専門家の不足は著しく、14億人を超える人口に対し、その数はわずか5,000人だと言われています。

この背景としては、心理療法を認定する審議会や認定機関がないこと、心理学専攻の卒業生が十分な医療経験を積んでいないこと挙げられています。

進歩した部分もあります。近年、メンタルヘルスケアは主に精神科病院や総合病院の精神科で受けられるようになりました。2015年の段階で、国内には2936の精神保健サービス機関または施設があり、その内訳は、42.1%が精神科病院、43.2%が総合病院の精神科病棟、10%が地域およびプライマリーヘルスケアセンター、3.3%が精神科クリニック、1.5%がリハビリテーション施設だったそうです。

南アフリカ
南アフリカでは、特にコロナが発生してから、質の高い医療へのアクセスであったり、貧困、失業など、コロナ以前からの構造的不平等が悪化しました。この国では歴史的に、アパルトヘイトの終焉に向けて保健制度が直面した主要な課題として、資源の深刻な不平等配分があり、南アフリカ政府は法改正を通じてこれらに対処しようとしたが、ギャップは埋まらなかったそうです。南アフリカの公衆衛生予算全体のうち、メンタルヘルスが占める割合はたった5%だそうです。

精神疾患の治療に関しては、南アフリカ応用心理大学(South African College of Applied Psychology)が発表したデータによると、重度の精神疾患を訴える南アフリカ人のうち、治療を受けたことがあるのはわずか27%に過ぎないと推定されました。アパルトヘイト、エイズの流行、ジェンダーに基づく暴力など、南アフリカの歴史はさまざまな、長期的な社会的トラウマによって特徴づけられます。そして近年のコロナによって、気分障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、不安症、恐怖症などのメンタルヘルスの問題がさらに悪化しています。

強みとしては、文化的にメンタルヘルスの問題に対して、生物医学的なアプローチよりも、社会的、人権的なアプローチを取ることに好意的であることです。これに準じて、国のメンタルヘルスの方針においても、他分野の研究者(心理学、行動科学など)を含めた視野の広いものになる可能性があると考えられています。

コロンビア
南アフリカと同様、コロンビアにおいても、国民全体が暴力にさらされてきたことへの歴史的理解が不可欠です。なぜなら、60年にわたる武力紛争の歴史的影響であったり、高い殺人率、ギャング活動、ジェンダーに基づく暴力、家族内暴力は、この国のメンタルヘルスを理解する上で重要な要素だからです。

トラウマの影響を受けている人の数、アルコールの乱用や違法薬物の使用も多く報告されています。コロンビアの人口の約15%が紛争によって避難しており、彼らが暮らすコミュニティでは人々は対応が困難なニーズを抱えています。


スペイン
スペインではメンタルヘルスの問題を抱える人々に対して、コミュニティ・ケア・モデルが活用されています。その目的は、自律性、アクセシビリティの継続性、公平性の原則に従いながら、予防に重点を置いた、包括的なケアを提供することです。その結果、地域医療提供者は、学際的な方法(様々な分野の専門家を用いる方法)でプライマリケアチームと連携します。近年では、パーソンセンタードケア(人を中心とした治療)、ユーザーエクスペリエンス(ケア介入を使う人が何を経験しているか)、アセスメントモデル(どのように何を評価したらいいのか)のさらなる開発など、このモデルのさらなる改善が行われています。

しかしながら、スペインの人々もコロナ禍ではメンタル不調に苦しみました。スペインは観光業とレストラン業に依存した経済であること、また、人々は家族の絆とアウトドアライフを大事にすること、これらの要因から心のバランスを失いました。うつ病と不安の増加は顕著でした。

2021年は、それ以前の調査年(2005〜2016年のスコアは15〜17.72%)と比べて、メンタルヘルスの不調が55.92%増加したと報告されました。

コスタリカ
コスタリカは医療の質だけでなく、幸福度でもしばしば上位にランクされます。さらに、この国の非公式スローガンである「プーラ・ヴィーダ」(直訳すると「純粋な人生」)は、幸福、楽観主義、人生を全うすることに価値を置くという、この国の人々の典型的なライフスタイルと倫理観を表しています。したがって、この社会で強い価値観は、他人を思いやり、質の高い生活を維持することです。

この国の医療制度はCCSS(Caja Costarricense de Seguro Social)と呼ばれ、給与税で賄われています。その結果、コスタリカのほぼ全人口が、CCSS内で無料で医療サービスを受けることができます。コスタリカは多くの機関から、医療の充実さで、ラテンアメリカのトップ3に常にランクされていて、この制度の質の高さだと言えます。

しかしながら課題もあります。例えば、メンタルヘルス疾患の有病率は、十分に研究されておらず、文書化もされていません。さらに、特定の精神医療プログラムがないため、この種のケアはプライマリ・ケアを通じてのみ利用されています。したがって、メンタルヘルスケアの改善だけでなく、国の状況全体について、より研究が必要です。

メキシコ
メキシコではメンタルヘルスケアへのアクセスが問題となっていて、これが大きな治療格差につながっています。その理由として、インフラ未開発のため財源不足、資金不足、調整不足が生じ、医療システムから切り離された人たちが多くいること。その結果、軽度のメンタルヘルス疾病者の87.4%、中度の疾病者の77.9%、重度(双極性障害や統合失調症など)の疾病者の76.2%が治療を受けていません。さらに、これらのサービスでは訓練を受けたメンタルヘルスの専門家が不足している一方で、最寄りの保健センターまで行くための交通費の財源不足も問題となっています。

メキシコ内で、メンタルヘルスに対するスティグマは強く存在します。メンタルヘルスの治療について、重度の疾病者のみが受けるものだと考えている人は多いそうです。しかしながら、人々がオープンマインドな地域では、お互いに協力し合うことが日常であり、そういったコミュニティではメンタルヘルスの問題もスティグマの影響なく話をすることができているようです。

また、メキシコではその他のメンタルヘルスケアもよく使われます。クリスタル、カード・リーディングなど秘教的、形而上学的な実践も使われるそうです。しかし、メキシコの専門家たちはこうしたエビデンスのないケアについては、ネガティブな影響もあるので注意するように人々に警告をしています。

その他のメンタルヘルスケア

オンライン・プラットフォーム
メンタルヘルスのためのアプリ、ウェブサイト、ソーシャルメディアなどのオンラインプラットフォームの利用が増加しています。こうしたプラットフォームは、情報交換の他、人々につながりやサポートを提供してくれる利点があります。

海外の専門家からメンタルヘルスケアを受ける
もし自国でメンタルヘルスのケアを受けられないのであれば、海外の専門家からケアを受けられるかを考えることもできます。多くの国ではまだまだメンタルヘルスのケア提供は十分に整っていません。また、エビデンスに基づいたケアを実施することがリソース的に難しいこともあります。この際は、自分の国とその専門家との文化的な違いを配慮する必要はありますが、それでも自分により適したケアを受けられるのであれば、これも良い方法だと言えます。


メンタルヘルスは今や世界的な健康問題とされています。それだけに文化の違いを理解することがますます大事になりそうです。

参照
https://www.verywellmind.com/how-do-other-countries-deal-with-mental-health-7556304
posted by ヤス at 06:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・メンタルヘルス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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