2023年07月16日

デジタルヘルスにおける文化的適応

近年、患者向けのデジタル健康ツール(DHT: Digital Health Tool)の利用は飛躍的に伸びています。インターネットを通して、患者の健康に携わることができます。例えばアメリカでは、アメリカ食品医薬品局が近年多くのメンタルヘルスに関する治療を承認しています。DHTのアクセシビリティ(円滑にサービスを利用できる度合い)については、テクノロジーとインフラの観点から広く議論されてきました。ここで多くの人が問題視したのは、スマートフォンやブロードバンドインターネットへのアクセス、テクノロジーリテラシーについてでした。しかしインターネットが世界を相手にすることを考えると、さまざまな文化背景を持つ人がアクセスをするので「文化的な違い」も非常に大事なトピックではあるものの、あまり議論されていません。


スパンヘルらはシステマティックレビューを出版し、その中でメンタルヘルスに関わるDHTが患者に使ってもらうには「文化的適応」が大事だと述べました。彼らは、メンタルヘルスDHTの文化的適応を行った55の研究を対象とし、これらの研究から文化的適応に不可欠な17の要素を特定しました。これらの55の研究は平均して、17の適応基準のうち11.6を満たしていました。また、驚くべきことに、文化的適応の程度は、DHTの有効性やアドヒアランス(処方された量と頻度、DHTを使うこと)との間には関連性がなかったそうです。

スパンヘルらは、メンタルヘルスDHTを文化的に適応させるための17の基準を定義しました。そして、既存のDHT研究を見てみると、これらの基準の68%しか考慮されておらず、また、どのように文化的適応をしたのか、そのプロセスを詳細に記載している研究は42%しかなかったと報告しています。つまり、既存のメンタルヘルスDHT、その中でもそのエビデンスが報告されているものの多くが文化的適応をまだ十分にしていない可能性があるということです。

また、文化的適応の臨床的意義も過小評価されている可能性があります。文化的適応と患者のメンタルヘルス状態との間に関連性がないという発見は驚きです。というのも、対面でのメンタルヘルス介入を調べた数々の研究では、有効性は文化的適応の程度と比例関係にあるからです。DHT介入にも同じことが当てはまると仮説されましたが、そうではなかったようです。ここも新たな研究が必要な分野です。

最後に、裕福な国で作られたDHTを、貧しい国の人々に適用する際には、文化的適応が重要です。しかし、米国のように、多様な国の異なる集団を対象とする場合や、メンタルヘルス以外のDHTを適応させる場合にも、文化的適応が重要である可能性があります。


参照
https://www.nature.com/articles/s41746-021-00516-2
posted by ヤス at 07:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・メンタルヘルス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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