2023年09月28日

「現実主義的評価」を端的に

現場で働くスタッフが、実験で報告されている新たな介入や方法を現場に導入するには様々な壁があります。実際の現場では、患者やスタッフの状況、社会文化的環境が研究の場面とは全く異なる場合があるからです。そのため、新しい介入を実施し評価するには、注意深く考え抜かれた創造的なアプローチが必要となります。そのようなアプローチの一つが「現実主義的評価(RE)」です。

ここでは現実主義的評価の概要と、この方法論はどのように利用できるかを紹介していきます。


現実主義的評価(RE)の特徴
REは、医療介入の評価を行うための枠組みを提供する研究方法論であり、調査を進める際の仕組みだとして知られています。REアプローチにより、研究者は「誰にとって、どのような状況で、どのような点で、どのように効果があるのか」を問うことで、介入がどのように機能するかについての理論を構築することができます。介入がどう機能するかがわかっていない状態のことを「ブラックボックス」と言い、内部の仕組みが見えないことを意味します。REのアプローチはその反対の「クリアボックス」評価です。つまり、「結果」がどのような「(介入プロセス)メカニズム」と「(社会文化的な)状況」の中で生まれたのかを、透明性をもって報告します。

介入がどのように機能するかを説明する理論は、「結果」が「特定の状況」である「メカニズム」を経て起きることを認識します。これは「CMOc(Context, Mechanism, Outcome configurations)」と表記されます。

例えば、
刑務所にいる人の中には反抗的な人もいる(状況)ので、
義務化されていない活動に従事することを拒否する(メカニズム)。
だからC型肝炎検査の受診率は改善しない(結果)。

状況
どのような形の調査であれ、その中で行われる状況があり、これが介入成果に影響します。REの権威であるポーソン(Pawson)は状況には以下の「4I」のいずれかの特徴である可能性があると述べています。

Individual: 評価対象のプログラムに参加する個人。

Interrelationship: すべてのステークホルダー間の相互関係。

Institution: プログラムが運営されている機関。

Infrastructure: プログラムを取り巻く、より広範なインフラストラクチャー(社会的、経済的、文化的)。


医療介入が導入される背景を明確に特徴づけることで、介入のefficacy(理想的な臨床環境で得られた結果)とeffectiveness(現実の環境で得られた結果)を区別することが可能になります。

メカニズム
メカニズムには3つの特徴があります。

介入に対する人々の相互作用や反応であること
介入によって見られた結果がどのようにもたらされるかを説明するものであること、そして
隠れたものであるが、状況の影響を受けるものであること

です。

つまり、メカニズムとは、介入の構成要素ではないということになります。構成要素とは統計的な回帰モデルに含まれたり、そこに見られたりする変数のことです。

結果
観察される結果は、状況とメカニズムを明確に定義し測定できるようにするために、正確である必要があります。また理想的には定量的であるべきです。質的な結果は、記述された差異がカテゴリカルな形式で示される場合は価値があると判断されます。

理論
プログラム理論とは、研究者が「どのように、なぜ、どのような条件下で」介入が機能すると期待されるかを説明する前提のことです。

仮説
次に、研究者は既存の文献を検討し、そして関係者とプログラム理論について議論し、自身の専門的な臨床経験を検討します。これにより、介入はどのように機能することが期待されるか、あるいは機能しない場合はどのような場合か、一連のCMOcを構築することができます。これらは、RE分野では「フォークセオリー」と呼ばれることもあります。

観察
ここで出来上がったCMOcを検証します。REでは、状況や目に見えないメカニズムを十分に探るために、質的調査と量的調査をミックスしたデータ収集を行います。調査結果は、CMOcと合わせて分析され、理論を支持または否定する証拠が求められます。

プログラムのスペック
REの目標は、正式な定量調査の目標である「一般化可能な結果」とは対照的に、確実で移転可能な「プログラムスペック」理論を特定することです。これは、特定の状況から切り離されない抽象度のやや低い理論を開発することで達成されるため、移譲が可能なものです。「プログラムスペック」の理論の正確性を確認するために、REサイクルを繰り返して再テストする場合もあります。このプロセスについては、JackとLinsleyの論文で詳しく説明されています。



REの長所と短所
REの長所は「個人の行動、反応、解釈が介入の結果に影響を及ぼす可能性が高い」と考えている、非常に現実的な点です。したがって、データ収集や結果のテストする際には、これらの要因を考慮します。短所としては、エビデンスに基づく実践の階層で、システマティックレビューとランダム化比較試験(RCT)が、介入による結果の原因を確認できる最も強固で標準化された方法論的アプローチと考えられています。そのため、RE研究ではRCTで期待されるような妥当性、信頼性、一般化可能性が期待できない点です。

結論
REの方法論はこれまで広く用いられてはこなかったが、患者やサービスとの相互作用の後、「目に見えること以上に、本当はここで何が起こっているのか」と自問する医療スタッフの間で、このアプローチが支持されつつあります。医療という学問分野は、患者を評価しケアを提供するために、全体的なアプローチを採用しています。REは、健康の身体的要素だけでなく、心理社会的、環境的、文脈的な領域も含めることの重要性を本質的に理解した研究アプローチです。従って、REの方法論は、研究熱心な医療スタッフの強力なツールだと言えます。


参照
https://ebn.bmj.com/content/25/4/111
posted by ヤス at 03:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・メンタルヘルス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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