2023年08月30日

英国研究・イノベーション機構(UKRI)の研究費応募でよく聞かれること

「イギリスの英国研究・イノベーション機構(以下、UKRI)」に研究費を応募する際によく聞かれることがあります。ここではレスポンシブ・モードという種類の研究費について述べていきます。


セクション「ビジョン
質問:提案するプロジェクトで何を達成したいですか?

評価者が回答に求めるもの
提案されたプロジェクトのアウトプットは以下の4条件を満たす必要がある。

1 その領域内、あるいはその領域を超えて、優れたクオリティと重要性を有している。
2 現在の理解を前進させ、その領域内外で新たな知識、思考、発見を生み出す可能性がある。
3 現在のトレンド、状況、ニーズを踏まえたタイムリーなものである。
4 世界をリードする研究であり、社会、経済、環境に影響を与えるものであること。


セクション「アプローチ」
質問:提案した研究をどのように実施しますか?

評価者が回答に求めるもの
どのようにあなたのアプローチを設計したか。アプローチは以下の6条件を満たす必要がある。

1 目的を達成するために効果的かつ適切である。
2 実現可能であり、アウトプット提出に対するリスクとその進捗マネジメントを包括的に考えられている。
3 明確かつ透明性のある方法論を用いている(プロジェクトがこの条件に該当する場合)。
4 これまでの作業を要約し、これをどのように構築・進展させるかを説明している(プロジェクトがこの条件に該当する場合)。
5 アウトプット変換(研究で分かったことを現場の成果や影響に変換すること)を最大化する。
6 あなたのチームの研究環境(場所、立地、他プロジェク トとの関連性など)が、どのように研究の成功に貢献するかを説明している。


セクション「応募者とチームの能力」
質問:提案されたプロジェクトを成功させるために、あなたが個人またはチームとしてふさわしい理由は何ですか?

審査員が回答に求めるもの
あなた自身、そして、あなたのチームがどのような能力を持っているかを証明する。4条件。

1 提案されたプロジェクトを遂行するための適切な、キャリアステージにふさわしい経験。
2 提案されたプロジェクトをカバーするための適切なスキルと専門知識のバランス。
3 提案されたプロジェクトを遂行するための適切なリーダーシップとマネジメントスキル、および他者を育成するためのアプローチ。
4 前向きな研究環境およびより広いコミュニティの発展に貢献したこと。

このセクションの単語数は1500 語です(R4RI「研究・イノベーションのための履歴書」では 1000 語+500 語を必要であれば追加)。

「研究・イノベーションのための履歴書(R4RI)」の書式を使用し、あなた自身とあなたのチーム(研究責任者、研究者、その他のスタッフ、例えば研究用ソフトウェアエンジニア、データサイエンティストなど、およびパートナー)が持っている関連スキルの範囲と、それが提案された研究を実現するためにどのように役立つかをアピールしてください。個人の具体的な業績を含めることは可能ですが、本業務を遂行する能力を最も証明できる過去の貢献のみを選択してください。

このセクションは、以下の R4RI モジュールの見出しを使用して記入してください。R4RIに関するUKRIのガイダンスを参照してください。回答のバランスを考慮し、各メンバーが持っている重要なスキルを強調する必要があります:

・新しいアイデア、ツール、方法論、知識の創出への貢献
・他者の育成と効果的な職場関係の維持
・より広範な研究・イノベーションコミュニティへの貢献
・より広範な研究・イノベーションの利用者・聴衆への貢献、より広範な社会的利益への貢献

「追加事項」の欄には、申請書に関連するその他の詳細を記入してください。このセクションは任意であり、500語まで記入可能です。スキルや経験、成果を追加で記述するために使用するのではなく、R4RI の他の部分に関連する要素(例えば、キャリアを中断していたことを公表したい場合、その詳細など)を記述してください。

履歴書のような形式は避けてください。

セクション「リソースとコストの妥当性」
質問:提案されたプロジェクトを遂行するために何が必要で、どれくらいの費用がかかりますか?

評価者が回答に求めるもの
プロジェクトに必要と予想されるリソースを示す(テキストボックス記入)。

1 包括的で、適切で、正当性がある。
2 意図した成果を達成するために、リソースを最適に使用している。
3 潜在的な成果と影響を最大化する。

このセクションは、単に必要なリソースのリストであってはなりません。費用については、UKRIに求める費用だけでなく、プロジェクトの経済的費用(FEC)に基づいて算出する必要があります。項目によっては、金額ではなく、要求される時間やスタッフのタイプなど、リソースのタイプを明記します。

リソースについて十分な正当性が示されない場合、授与される資金から差し引くことがあります。


倫理と責任ある研究とイノベーション(RRI)
質問:プロジェクトに関して、倫理的または RRI (責任ある研究)的な影響や問題は何ですか? 提案された研究が倫理的またはRRIに関する問題を提起しないと考える場合は、その理由を説明してください。

評価者が回答に求めるもの
関連する倫理的またはRRIの考慮事項を特定し、評価したこと、およびそれらをどのように管理するかを示してください。


参照
https://www.ukri.org/apply-for-funding/improving-your-funding-experience/how-applicants-use-the-ukri-funding-service/responsive-mode-opportunities-funding-service-core-application-section-questions-and-assessment/core-section-questions-and-how-they-will-be-assessed/
posted by ヤス at 19:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月05日

在宅勤務の心理についてインタビューをしていただきました

たまには私の仕事のことも書こうと思います。

先日、CGNTヨーロッパというテレビ局の「アジェンダ」という番組で、在宅勤務の心理についてインタビューをしていただきました。彼らは私のこのテーマに関する論文と大学ブログを見たらしく、コンタクトを取ってくれました。視線を調整するためにパソコンのカメラの位置はどうあるべきか、音はどうかなど非常にプロフェッショナルでした。テレビ局の皆様の素晴らしい編集のおかげで、それっぽいことを言っているように映っています。企業と労働者のお役に立てばいいなと思います。以下、15:25から始まります。ご興味あればどうぞ!
posted by ヤス at 07:27| Comment(0) | 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月24日

夢の中で他人の問題を推測できるか?

どうやら人は、知らない人の写真を見てその人が抱える問題について夢を見ようと計画すると、本当にそんな夢が見られるようです。

カナダのトレント大学の名誉教授であり著名な認知科学者、カーライル・スミス(Carlyle Smith)は長年に渡り記憶強化に夢が有効だという事を提唱してきた人です。彼が今回、上述したような、見知らぬ人の問題を推測する夢について実験をしました。

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実験1はパイロット研究で、実験的装置の発展や夢分析テクニックに特化したものでした。実験2では参加者66人(実験グループ)に対して誰も知らない(実験者のスミスも知らない)ターゲット人物の写真を見て、その人の個人的な問題について夢を見るように頼みました。実験説明では、この問題は健康面だったり、感情面、経済面だったり多岐に渡ると言い伝えます。制御グループには56人の参加者が集まり、彼らにはコンピュータで作った架空人物の写真を見せて、実験グループと比較します。

この写真は、スミスの友人の友人の写真で、実験前に撮られていて、この人の問題についても既に記録しておきました。この人は中年の女性で多発性硬化症(特に手)を煩い、痛み止めの薬を常時採っていました。また彼女は末期段階の肺がんを煩うお母さんの世話もしています。そしてこの人の夫は、仕事場での事故により、まずは手足を切断され、その後、亡くなりました。また彼女自身も重大な交通事故に遭った経験があります。

写真を見るだけでその人の問題を夢見る事ができるのか。スミスは参加者が眠る前と眠って起きた後の様子を調査し、それが正しく推測できているかを知るために以下のような正解カテゴリーを用意しました。参加者の回答が以下に当てはまれば、正しい推測をしているという事です。

胴体に関する事柄や問題
頭部に関する事柄や問題
手足に関する事柄や問題
呼吸に関する事柄や問題
その他の健康に関する問題
経済的な問題
社会的、結婚上の問題
車や運転に関する問題

そしてこのカテゴリーを基に参加者の回答を集めました。結果どうだったか?

眠る前と眠って起きた後の調査を調べると、参加者が上記のカテゴリーについて言及した割合は眠って起きた後の調査の方が圧倒的に大きかったのです。眠って起きた後の段階で最も言及されたカテゴリーは手足の問題、呼吸の問題、そして、車や運転に関する問題でした。

また架空人物の写真を見て同じ事をした制御グループの回答と比べると、制御グループには実験グループに見られるような、眠る前後の正解率の上下がなかったそうです。

実験グループの一人は「女性がいて、薬のフタを開けようとするが手が不自由だから開けられない。右手は動かなくてすごく痛そう。」といった回答をしていました。

このような夢の中でのテレパシー「ドリームテレパシー」が現実だとするとどのような論理が組めるでしょうか?スミスの考察では、過去の実験で2人の別人間において共通の脳波が機能磁気映像法で確認された事を挙げています。ドリームテレパシーと脳活動パターンは特に双子において強い関係性が見られたそうです。

人間の脳って本当に面白いですね。それにしても夢研究者、又はその助手って良い仕事だなと思います。仕事の大部分は寝る事でしょうからね(笑)僕も海外で生活するようになってから余計に睡眠には気を遣うようになりました。というのも、情報処理が外国語なので、そこで効率よく情報収集、発信するには、僕の感覚では脳パワーの70%くらいは最低限必要です。ですのでしっかりと質の高い眠りを取るようにしています。

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参照
"Can healthy, young adults uncover personal details of unknown target individuals in their dreams?”
posted by ヤス at 05:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月15日

男の賢さは顔で分かる

人の頭の良さを顔の見た目から判断できるでしょうか?チェコで行われた新たな研究では男性の顔から頭の良さを判断する事は科学的に可能だと紹介されています。

この研究の結果によると、賢そうに見える男性の顔とその男性の実際の知能には関係があり、しかし女性には同じ事は見られなかったそうです。研究者の考察では、これは女性が主に受ける判断は「魅力的かどうか」という事なので、この視点が「賢いかどうか」という判断を鈍らせるのでは、と述べています。

研究結果を見ると「賢そうな顔」には強い意見一致がありました。

「両性ともに、細顔、細顎、大きく長い鼻が知性の高い人だと思われやすく、丸く、幅広い顔で、顎が大きく、小さな鼻を持つ人は知性が低いと思われやすいという傾向がありました。」


この研究はチェコで行われたので、この結果は異なる文化では当てはまらないかもしれません。

その他、より魅力的に見える顔ほど、より賢く見えるという人も多々います。しかし現実社会で、魅力的な顔と知性に相関関係がないので、これはハロー効果によるものだと考えられています。

最後にこの研究で分かった事は、喜びの感情を表す顔の方がより賢く見え、怒りの感情を表す顔の方が賢くなく見えるという事。知能の高そうだと思わせる顔はスマイル感があり、知能の低そうだと思わせる顔は怒っている感があったそうです。信頼感においても、信頼できそうな顔はスマイル感があり、できなさそうな顔は怒っている感があったそうです。

外見って大事だと言われますが、こういった科学的結果があると更に納得です。以下、東京のデンタルエステサロンです。無料で40分のカウンセリングをしてくれるようです。
笑顔を印象づける歯のホワイトニング【ホワイトエッセンス】



参照
http://www.spring.org.uk/2014/04/the-facial-expression-that-makes-you-appear-smarter.php?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+PsychologyBlog+%28PsyBlog%29
posted by ヤス at 17:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月05日

実存主義的現象学をスポーツ心理学に

スポーツ心理学において客観的な事柄も非常に大事ですが、その場においてアスリートが何を感じているのか、主観的な調査も非常に大事です。この事は多くの研究者によって推奨されてきました。

そして1980年代後半から徐々にアスリートの経験に焦点を当てた質的研究が増加してきました。その中でもここでは実存主義的現象学(existential phenomenology)のフレームワークについて書きたいと思います。




研究者たちがある人について理解したいと思う時、2つの側面からアプローチします。1つが物理的な行動。これは外的に観察する事が出来るもの。もう1つが個人的な経験。これは内側で起こる感情や感覚、つまり外的に見る事ができないものです(Valle, King, & Halling, 1989)。こういった見方はデカルトの二次元主義(主観精神と客観精神)から来ています。




伝統的な科学的手法には3つの基準が必要となります。1.観察可能ーその現象が観察できるものであること。2.計測可能ーその現象が計測できるものであること。3.証明可能ーその現象が他の観察者によって証明できるものであること。この見方では、数量的で、観察できて、証明する事ができる手法こそが科学的手法だという事になります。

しかし、人間現象に興味がある研究者はこれだと非常に研究が制限されたものになる、と主張します。伝統的科学手法では「なぜ」特定の物事が起こるのか、と「なぜ」に執着します。その現象は「どういったものか」とかその現象の「本質は何か」といった事にはあまり着目しません。この問題を解決するために、つまり、人間現象をより詳しく研究するために実存主義的現象学が生まれました


基本となる哲学

実存主義的現象学とは、実存主義と現象学の融合物で、人の経験に対して特定の見方をする事と、その経験を調査するのに特定の様式を使う事が合わさったものです。両方ともが人間現象の更なる理解を目指し、ある人の生活や経験がどのように体験されたのか、一人称で非常に具体的に見ていこうとするものです。

現象学は実存主義に経験を効果的に描写する方法を与えました。現象学はドイツの哲学者、エトムント・フッサール(Edmund Husserl)によって作られデンマークの哲学者、セーレン・キェルケゴール(Soren Kierkegaard)によって提唱された実存主義と合わさっていきます。この混合に大きく影響したのがマルティン・ハイデッガー(Martin Heidegger)です。この混合によって第一人者の経験を研究する方法ができたのです(Giorgi, 1970)。







実存主義的現象学はアスリートが完全に自由な意思を持っていると考えるわけでもなく、全く自由な意思があるとも考えません。その代わり、アスリートは「状況的自由」といって、その状況内にあるフレームワークの中で何かを選択するという自由を持ちます。

スポーツ心理学の研究者は、アスリートにインタビュー形式で自由に話をさせる事(現象学的アプローチ)で、非常に詳細な彼らの主観的経験を研究する事ができるのです。



現象学的なインタビュー方法

他人の経験を描写していくのに有効な現象学のツールとして、インタビューがあります。インタビューとは、2者間で会話をし、そこから出て来る事柄をお互いに明確化していく事です(Pollio et al., 1993)。これによってインタビューされる人がその経験を正確に描写できるだけではなく、その過程において新たな発見を促す効果もあります。

ハンソンとニューバーグは、スポーツ心理学の研究は、自然主義的手法を使って、より主観的な経験を調査すべきだと述べています(1992)。自然主義的手法は人類学から生まれた発見重視のアプローチです。このアプローチでは前もって設定された質問はなく、インタビュー相手の経験をより詳しく知る為のものです。

インタビューは特定の方向性を与える為に最初にされて、その反応によって次の質問が決まっていきます。こういった過程がインタビューずっと続いていきます。この方法によって、インタビュー相手はその経験の専門家という立場を取れて、インタビューをコントロールする事ができます。研究者の責務は話されている事と関係の或る効果的な質問を問う事です。

現象学的インタビューも、自然主義的なインタビューと同じように、会話によって流れていきます。質問はオープンエンドで、特定の経験を第一人称で主観的な形で収集していきます。行動などといったレベルではなく、その人の経験した事、それにどう意味をつけたり解釈したか、などといった事を収集します。ここでもアスリート(インタビュー相手)は専門家という立場でインタビューに臨んでもらいます。


現象学リサーチの手順

それではどのように現象学リサーチを進めていくのか。その手順を見ていこうと思います。

1.研究テーマを決める


2.個人的偏見のチェック

質的研究において、研究者の偏見は大きく結果に影響する可能性があります。ですので、実験前にこういった偏見に気付いておく必要があります。偏見チェック(bracketing interview)はその研究に携わっていない研究者がします。ここで研究テーマに関するインタビューをして、その反応に偏った見方がないかを調査します。ここで何か偏見が見つかれば、それをメモに記入して、本研究のインタビュー中はそれが見えるようにしておきます。こうする事で研究者(インタビュアー)の勝手な解釈を防ぐ事ができます。偏見は人間のすることには必ず出るので、皆無にはできませんが、気付いておく事で抑える事ができます。

3.インタビュー相手が専門家

インタビューではインタビュー相手が専門家だという立場を作ります。トップフィギュアスケーターに関する研究ではインタビューガイドアプローチが使われ、これによって彼らの楽しみやストレス、その対処法が研究されました。このアプローチによって研究テーマへの関連事項を明確にする事ができました。

インタビュー構成については、あまり制約をするとアスリートがありのままの体験を話しにくくなるものの、ある程度のフレームがないと研究と無関係の話で終わってしまいます。なので、研究したいトピックについてインタビュー最初に明確にし、それからアスリートにその時の経験をありのまま話してもらうようにします

たいてい現象学的インタビューは30分から1時間くらいで、「重要なテーマは会話の中で何度も反復される」という前提に立っています。

現象学的インタビューでは最初はオープンエンドの質問で始まります。例えば「あなたがベストパフォーマンスした時の状況、経験された事、どういったものでしたか?」などです。そして後はアスリートの話を中心に話をしていきます。研究者がよく陥りがちなのが、自分の理論を確認したがる事です。そうではなくて、相手の経験をそのまま聴く事を意識してください。そして、一般的で抽象的な反応ではなく、具体的で主観的な情報を集めて下さい。

そして質問は「〜はどんなでしたか?」とか「〜したときどう感じましたか?」という形がよく、「なぜ〜?」という質問は相手に合理化を求め、相手が防衛するかもしれないのであまり使わない方がいいです。


4.データ分析

インタビューが終わったら次はデータを分析します。まずはインタビューの書き起こしを数回読み、全体像を把握します。そして、重要なコメントからメインテーマ(meaning units)を抽出します。そして、それらのテーマをカテゴリー分けしていきます。それができたら全てを俯瞰して、全体構造を把握します。

ここから研究者はそれらデータを解釈していきます。どの解釈フレームワークを使うかで分析方法、目的、研究基準の評価が変わってきます。アスリートの生きた経験を記録するには次の2つの手順が基本です。1.ブラケティング。2.解説的手順。


4ー1.ブラケティング

ブラケティングは偏見チェックと同じように、解釈において研究者の偏見が結果に影響していないかを調べる事です。これには2つの方法があります。1つはインタビュー相手の言葉を使って解釈をすること。もう1つは解釈をグループでする事です。

インタビュー相手の言葉を使って解釈をすると、その選手が体験した生の体験により近い解釈をする事ができます。また、グループ解釈は他の研究者に来てもらい、解釈に偏見がないかをチェックしてもらいます。

こういったプロセスを経る事で、研究者は特定のテーマを見過ごしていたり、特定のテーマに集中し過ぎていたりしている事に気付くことができます。


4ー2.解説的手順

ブラケティングができたら、現象学的なデータをさらに解釈するために、個別的、法則定立的な解釈を使って解説的アプローチをします。個別的解釈はそれぞれのインタビューの書き起こしをケーススタディとして、その個人の経験を詳細に記述していきます。そうすることで、アスリート間の目立った違い等を観察する事ができます。

解説的手順の最後のステップはより法則定石的な記述を作成する事です。これには各インタビューを全てのインタビューと関連づけて解釈する必要があります。そうする事で全体的な相似点を見つける事が出来ます。


5.完成物をインタビュー相手に見せる

できたものをインタビュー相手に見せて、解釈が正確かどうかフィードバックをもらいます。



この研究方法の妥当性

この研究方法で妥当性を持たせる為にはアスリートの第一人者的経験が極めて重要になります。そしてそれを研究者が記述し、その記述したものと読者が同じ者を想像する事ができるかが鍵となります。これは読者が同意するかどうかではなく、読者がその記述を読んで、研究者の意図を理解できるかが問われます。従って、研究者の記述が大事になります。


まとめ

現象的インタビューの主眼は、研究テーマに関するインタビュー相手の世界にあります。こういったインタビューは「経験の中心的テーマ」を理解する事を目的とします。

現象的インタビューの欠点は時間がかかりすぎる事です。また自由なフレームのため、インタビュー相手に研究とは関係の無い事を長々と話される可能性もあります。また、同じインタビューを異なる研究者がすると、異なったデータが出る可能性がある事も挙がります。

しかし、利点はというと、インタビュー相手が専門家だという状況なので、もし研究者の質問が的が外れたものであっても、相手が勝手に修正する事ができます。また、会話という形なので形式張らずにリラックスして答えやすいという事。また、研究方法の柔軟性や主観的経験により詳細に入っていける事、また経験重視の視点でなければ(従来の科学的研究法であれば)見過ごされている点を記録する事ができる、などが挙がります。

個人のメンタルスキルが大きな違いを生むスポーツ心理学において、こういった研究方法が適していると考えるのは自然な事と言えそうです。そして、そういった情報をアスリートやコーチ、その他研究者の間で共有する上でも今後、現象学インタビューによるアプローチがより使われてくると思われます。







参照
"Existential Phenomenology: Emphasizing the Experience of the Athlete in Sport Psychology Research" Gregory A. Dale (英文PDF, Full-text)
posted by ヤス at 06:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする