2023年08月11日

患者のための研究助成(RfPB)

イギリス国立健康ケア研究所(NIHR)は「Research for Patient Benefit (RfPB)」という研究助成プログラムを運営しています。これは日本語にすると、「患者のための研究助成(以下、患者研究)」とでもなるでしょうか。患者研究は、健康、公衆衛生、社会福祉の研究に資金を提供するもので、健康サービスの幅広い課題を対象としています。このプログラムの目的は、NHSサービスの有効性を高め、費用対効果を提供し、患者に利益をもたらすようなテーマや研究手法に資金を提供することです。患者研究は、福祉ケアを提案のための研究企画募集(RfSC)も実施しています。

患者研究プログラムは、医療や福祉スタッフの日々の業務に関わる研究を支援します。研究の提案は、患者であったり、NHSや福祉の利用者といった人たちの健康や幸せに恩恵をもたらす明確な軌道を持つ必要があります。


対象
患者研究は何を助成するのか?
患者研究は研究者主導で行われ、研究テーマに関しては特定することはありません。福祉ケアの企画募集では、ケアサービスの利用者、介護者、一般市民のために、成人福祉ケアの提供方法を改善、拡大、強化するためのエビデンスを生み出す研究に資金を提供します。

期間と金額は?
個々のプロジェクトに提供される資金は、最大で50万ポンド、最大36ヶ月間です。フィージビリティ・スタディは25万ポンド以下、より下流の調査に役立つ可能性のある結果を生み出す提案は15万ポンド以下となります。

患者研究への申請に関する詳細は、資金限度額、資金調達、第3段階資金調達、フィージビリティ・スタディの申請、確立された介入の更なる評価、プロジェクト内スタディ(SWAP)の申請に関する補足ガイダンス・ノートを参照してください。福祉ケアの企画募集の資金提供には、上述したような企画の種類による限度額の変化は適用されませんのでご注意ください。

資金提供はいつ行われますか?
RfPBは年に3回、資金提供の機会があります。RfSCは年に1回です。具体的な日程はこちらをご覧ください。


助成内容
患者研究プログラムは以下のような研究を支援します:

・NHSサービスの提供と利用に関する研究

・介入の有効性と費用対効果の評価

・医療提供の代替手段の資源利用を調査する研究

・より大きな研究助成金を獲得するための実現可能性調査

・新たな介入、尺度、アウトカム尺度の開発と改良

・ニーズ調査、メソッドの開発、探索的研究を通じて、患者の健康とウェルビーイングの改善の可能性を探る研究

・エビデンスの統合とシステマティックレビュー



患者研究プログラムは以下を支援しない:

・実験室ベースの研究、基礎科学研究、実験医学

・動物実験または動物組織を用いた研究

・研究ユニットの設置や維持などのインフラストラクチャー

・より広範な汎用性がある場合を除き、サービス開発。注:新しいサービスの費用は本助成金から資金提供されない。

・監査または調査(ただし、これらの要素は総合的な研究調査の一部であれば可)

・今後の研究の優先順位設定



大きな選考基準としては以下があります:

提案された研究の質

NHSとその患者にとっての重要性と潜在的利益

申請によって提供される費用に対する価値



参照
https://www.nihr.ac.uk/explore-nihr/funding-programmes/research-for-patient-benefit.htm
posted by ヤス at 07:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理学実験 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年08月09日

スピン・バイアスとは研究歪曲

「スピン・バイアス」とは、意図的であれ、非意図的であれ、研究結果を歪曲解釈し、不当に有利または不利な結果を示唆することを言います。

利用可能な最善の臨床エビデンスは医療における意思決定に反映されるべきです。そのため臨床研究の結果は正確に報告され、提示されるべきです。フレッチャー(Fletcher)とブラック(Black)も「データはそれ自身を語るべきである」と指摘しています。

しかし、研究者は、「スピン」を加えることによって、自分(あるいは他者)の結果の解釈を歪め、結果が正当化されるよりも好意的に(あるいは不利に)捉えられるようにし、読者を惑わす誘惑に駆られることがあります。


例えば、仮説が正しくないのに正しかったと示唆したり、正しかったのに正しくなかったと示唆したり、メディアの注目を集める「インパクト」を示したり、研究利用者に影響を与えるマーケティングツールとして機能したりする、などがあります。

医療の研究におけるスピン・バイアスは、以下のような様々な形で現れることがあります:

研究デザインや分析が因果関係を正当化するものではないのに、因果関係を決めつけた言い回しをする。
二次エンドポイント(観察や介入を終える時点)への不当な注目。
統計的に有意な主要評価項目を強調し、統計的に有意でない主要評価項目を無視する。
統計的に有意でないエンドポイントについて、非劣性/同等性を主張する。
トレンドに言及して有意性を示唆する。
サブグループにおける統計的差異から有意性を推測する。
「治療の意図による分析」よりも「プロトコル通りのみ分析」を強調する。

EQUATORネットワークは、このような慣行は、健康研究の報告書の完全性、透明性、価値を低下させる誤解を招く報告だと述べています。

参照
https://catalogofbias.org/biases/spin-bias/
posted by ヤス at 08:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理学実験 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年08月08日

イギリス・医学研究審議会のパートナーシップ助成

パートナーシップ助成金制度は、多様な研究者グループ間の新しいパートナーシップを支援するためのものです。

助成金は、MRC(医学研究審議会)や他の助成団体から既に支援を受けている質の高い研究プログラムにさらに付加価値をつけるような、新しく価値のある共同研究活動や能力を確立するために提供されます。仮説に基づいた単独の研究プロジェクトに資金を提供するためのものではありません。

共同研究には以下のようなものが含まれます。

・ネットワーキングとパートナーシップ活動。学際的な共同パートナーシップやコンソーシアム(共同事業体)の設立、分野横断的な国内戦略や国際戦略の育成・実現、研究機関横断的な知識の共有や創造の実現。

・独自の共有資源を確立したり、その活用を支援するためのインフラ支援(スタッフ、システム、機器、セミナー、ワークショップなど)。

・専門的なデータやソフトウェアのプラットフォームやリソースなどのプラットフォーム活動。

・戦略的に重要な分野における研修、キャリア開発、能力開発。

・小規模で短期的刺激を与えるプロジェクトを指示することもあるが、具体的な研究質問がプロジェクトの中心となるべきではない。パートナーシップが中心である。そして、プロジェクトには様々な分野の専門家を用い、新たなパートナーシップの新たな能力を示すものでないといけない。


通常、成功するパートナーシップ助成金には、これらの要素が組み合わされています。ネットワーキング活動のみを支援する資金申請は却下されます。補助金の成功例として、パートナーシップ補助金のケーススタディをご参照ください。

パートナーシップ助成金は、最初の交付が終了するまでにはパートナーシップが出来上がり、その後の活動は別の方法で支援されることが期待されています。

参照
https://www.ukri.org/councils/mrc/guidance-for-applicants/types-of-funding-we-offer/partnership-grant/#contents-list
posted by ヤス at 23:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理学実験 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年07月30日

臨床試験の4段階

臨床試験には通常、4つの段階があると考えられています。

第1段階
少人数の健康なボランティアまたは患者において、治験薬または治療法の安全性と忍容性(Tolerability)を評価する。忍容性とは薬を患者に投与した際に現れる副作用の程度の事で、副作用が小さければ、「忍容性が高い」となる。

第2段階
薬や治療法の有効性に関する予備的データを収集し、さらに特定の症状や疾患を有する患者を対象とした大規模なグループで安全性と副作用を評価する。

第3段階
治療法の有効性を確認し、副作用をモニタリングし、標準的な治療法やプラセボと比較するための大規模試験を実施する。

第4段階
治療法が承認され、一般に使用できるようになった後も、より大規模で多様な患者集団を対象に、治療法の安全性と有効性をモニタリングするための試験を継続する。



これら4段階に加え、一部の臨床試験ではサブカテゴリーや専門的な研究が含まれることもありますが、臨床試験の大部分はこの4段階構造に従っています。これらのフェーズの目的は、患者治療に承認され広く使用される前に、治験薬の安全性と有効性を評価するためのデータと証拠を体系的に収集することです。
posted by ヤス at 06:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理学実験 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月04日

実装とは改善のことである

研究者は研究費を申請する際に、研究を実施する計画や、その研究が実際にもたらすと予想される影響について説明するよう求められています。

このことを「翻訳ギャップ」と言います。翻訳ギャップには2つあり、1つ目は、研究から得られたアイデアをエビデンスに変換すること。2つ目のギャップは、そのエビデンスを日常の臨床実践(プラクティス)に取り入れることです。この取り入れることを、実装(インプリメンテーション)と言います。

過去20年ほどの間に、実施科学の分野は成長し、多くのモデルや理論、そして膨大な量の研究が生まれました。実装スペシャリストのクリスチャン・ハドソン(Kristian Hudson)は「実装の秘密」(パート1、2、3)という素晴らしい資料を作成しました。

実装科学が発展する裏には、多くの実験で生まれる知識が、現実の世界で物事を実施しようとする人々にとって、特に役に立たなかったからことがあります。臨床の現場で役立たせるには、現場の専門家やプラクティショナー、また、一般の人々の声が必要です。つまり、実装科学とは、実装社会科学だとも考えられます。


次に大事なポイントとして、フィデリティと機能のバランス。フィデリティ(忠実度)とは、複雑な介入がどこで使われようと、定められた方法で使われることです。機能とは、介入から得られる利益。フィデリティを維持しようとすると、機能が減少するケースは多々です。フィデリティを維持しようとするがために、プラクティショナーが現場で使えないと思ったり、デザインが乏しく、アンケートに参加しない患者がいたりします。医学研究評議会と健康財団が最近この問題に取り組み、フィデリティよりも機能を担保することの重要性を強調する声明を出したそうです。クリスチャンいわく「実装は改善」です。


参照
https://www.rdsblog.org.uk/real-world-implementation
posted by ヤス at 08:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理学実験 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする