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2020年05月07日

どうすれば質の高い論文が書けるのか

ネイチャー誌でこのテーマの記事があったので、まとめたいと思います。

メッセージを明確に

まずはどんなメッセージを読者に伝えたいかを明確にする。これが不明確だと、後々、コミュニケーションミスが起きる。またメッセージの明確さは複数の著者が絡む時にも有効。オススメは共著者が全員ミーティングをして、メッセージだけではなく、データの選択、視覚的プレゼンテーションなども議論する。

最も大事な情報は主文に書かれるべきで、あまり必要でないものは付録に入れる。

多くの論文がリジェクトされる理由の一つに、ディスカッション部分が弱く、既存の文献をしっかり理解していことがバレバレな時。研究者は、彼らのリザルトがどのように他の状況でも有効なのかを説明し、論文の独自性を強く訴えるべき。

思索ベースの結論とエビデンスベースの結論には紙一重の違いしかない。ディスカッション部分で思索をすることはできるが、これは過度にしてはいけない。ディスカッションの全てが思索だというのではいけない。なぜなら著者の経験に根ざしたものではないからだ。結論部分では、1、2文、次にする必要のある研究について述べると良い。


ロジックの枠を作る

構造が大事である。例えば、この論文(http://doi.org/ckqp)でも説明しているが、それぞれのパラグラフは、まず最初の文章で状況を定義し、中部分では新たなアイデアを紹介し、そして、最後の文章で結論を述べる(「状況・コンテンツ・結論」モデル)。論文全体で見ると、イントロ部分が状況を設定し、結果の部分がコンテンツを提要し、ディスカッションで結論となる。

また一つのキーメッセージに絞ることが大事である。これがタイトルに反映される。そして、論文の全てがそのアイデアをサポートする。

書き手としてあなたの仕事は、専門知識がないかもしれない査読者をサポートし、あなたがした研究を理解してもらわないといけない。これは、問題点を理解してもらうこともそうだ。そうでないと、なぜあなたの研究が大事なのかわからない。


自信を持って書く

科学者として物を書く時、唯一の義務は「明確さ」である。つまり、この論文では「何が新しいのか?」これに明確に答え、論文の全ての部分はこれに貢献しないといけない。

ドイツ語のコンセプトで「赤い糸」という表現がある。これは物語の最初から最後までを結ぶ糸のことである。科学的文献では、「何が新しいのか?」この答えが赤い糸となる。これこそ論文を書く意義である。

そして、自信を持ってはっきりとした文章を書くことだ。そうではないと誇張されたり、紛らわしい表現となる。こうなると、メッセージがはっきり伝わらない。例として挙がっていたのが

悪い例
“Though not inclusive, this paper provides a useful review of the well-known methods of physical oceanography using as examples various research that illustrates the methodological challenges that give rise to successful solutions to the difficulties inherent in oceanographic research.”


良い例
“We review methods of oceanographic research with examples that reveal specific challenges and solutions”


読者の仕事は、注意深く読んで、それを記憶することだ。そして、著者の仕事は、それをしやすくすることだ。これをマスターするには、自分の専門分野以外の論文も読むと良いだろう。


ゾンビ名詞に注意する

論文を書くときは、常に「査読者は忙しくて、疲れている」と想像しながら書く。そして、自分自身が読んでいて楽しいものを書くこと。

学術論文はつまらないものである必要はない。人間はストーリーで生きる動物である。論文に入り込まなければ、それを理解するのは難しい。論文は事実に基づき、エビデンスベースで、簡潔であるべきだが、だからといってつまらなくしないといけないというわけではない。

よく見ることが、著者の個人的な意見が鎮圧されてしまうこと。多くの著者が、メンター等から、個人的な意見を書いてはいけないと言われる。しかし、この概念が強すぎて、良い意見が表されないこともある。

ヘレン・ソードが「ゾンビ名詞」という言葉を作った。つまり、「implementation(実施)」 or 「application(応用)」といった名詞は、それらの動詞と比べて、活気がなくなっている。良い論文は読者の感情を引きつける。だから論文が一度仕上がったら、少し活気のある言葉を使って、ストーリーにすることも良い(もちろんバランスが大切だが)。


大げさな散文をカットする

クリエイティビティーは大切だが、学術論文の目的は情報を伝えることである。きらびやかな表現をする人もいるが、特にノンネイティブで英語を扱う人にとっては、混乱の種となりかねない。言語は必要以上に複雑にしないことが大事だ。

しかしカットのしすぎも問題である。例えば、メソッドの部分で、大事な研究方法に関する項目を伝えていなかったり。メソッド部分では、読者が同じ研究を再生できるように情報提供しないといけない。また、論文全体を通して、論点が一貫していること。それと同時に、証拠以上のことを言わないことが大事である。

編集長や査読者は、その分野で役に立ちそうな面白い発見を探している。それに応えられなければ論文はリジェクトされる。多くの著者がディスカッション部分でリジェクトされる。つまり、発見したことがどれだけ面白く、その分野に役立つかを上手に伝えられていない。また既存の文献を再評価し、その論文での発見が、将来の研究にどう活かせるかを書かないといけない。また発見が強固なものであると伝えるために、他の解釈・説明を考えたこともアピールしないといけない。


多くの読者をターゲットとする

論文のインパクトとその質に関係性があることを証明する研究はまだないが、以下の論文では明確で、簡潔で、叙述的なタイトルはSNSやメディアで取り上げられやすいと述べられてある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28039032

大事なことは、何が言いたいかをズバリということである。あらかじめ批判を避けようとして、遠回しな表現をせずに、明確で、他の分野の研究者など、素人にでもわかるような表現をすることが大事である。専門分野の人以外にでもわかるように書くと、他の分野の論文で引用される可能性が高まるだけではなく、研究者以外の人たちにも読んでもらえる。そうすると、一般誌などでも取り上げられやすい。

参照
https://www.nature.com/articles/d41586-018-02404-4
posted by ヤス at 06:57| Comment(0) | 心理学理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年12月30日

迅速エビデンス査定(REA)とは何か?

現在、学士課程の最後の授業では、 Rapid Evidence Assessment (REA)という文献レビューを学生さんにしてもらい、卒業論文としています。このレビュー方法、適当な邦訳が見当たらないので、勝手に訳すと、「迅速エビデンス査定」とでもなるでしょうか。これはシステマチックレビューと比べるとわかりやすいのですが、がっつりと今ある研究結果ををレビューするのではなくて、素早く限定して研究結果をレビューする方法です。これについてご紹介します。


文献レビューで最も王道なのが、システマチックレビュー(SR)です。SRでは特定のトピックに対して、全ての関連する研究を見ていき、比較的幅広く範囲を設定して、徹底的に文献を見ていきます。そして、複数の研究者がそれぞれ独自に、一つ一つの研究を、決められた範囲に当てはまるかどうか判断し、またそれらの質も分析していきます。SRは透明性があり、証明ができ、再実行が可能なレビューだと言えます。従って、SRはバイアスが他のレビューよりも少ないと言えます。


SRと同様、REAも労働現場に有効な情報を提供できるレビューであり、既存のエビデンスを集約するものです。SRとの間にいくつもの共通点があります。

1. 背景
2. 研究質問
3. 選択基準
4. 検索の戦略
5. 対象研究の選択
6. データ抽出
7. データ分析
8. 分析結果の集約
8.1. キーワードの定義
8.2. メカニズムの解明(原因など)
8.3. 主な発見
8.4. モデレーターとメディエイターの発見
9. 分析結果の統合
10. 研究の弱点
11. 結論
12. 労働現場への示唆


SRとREAの大きな違いは、それぞれにかかる時間やリソースです。従って、発見した事柄の幅の広さや深さはREAでは狭く浅いと言えます。つまり、REAは、SRでがっつりと調べるものの、特定の鍵となる一部だけを見直します

文献検索においては、SRほど包括的にデータベースを見直しません。2、3の主要なデータベースのみを検索します。そして、出版されていない文献は無視します。

対象となる研究も、特定のデザインを用いているもの(例:メタ分析やランダム化比較試験[RCT])だけを分析します。

データの抽出においても、主要な情報だけに焦点を当てます。例えば、出版年、対象人口、研究デザイン、サンプルサイズ、特定のモデレーター・メディエイター、主な発見、効果の大きさなど。

また、分析の際にも、選んだ研究の研究方法の適性と質に焦点を当てて、判断します。

これらの特徴から、REAはSRと比べると、よりバイアスに弱いと言えます。しかし、SRでは複数の研究者が1年ほどかけて行うのに対して、REAは2人の研究者で数ヶ月でできることもあります。従って、SRを行うほどの時間や資金がない組織では、REAを実施する場合があります。臨床、医学、そして、マネジメントの分野で、REAは使われることが多いです。


参照
https://www.cebma.org/faq/what-is-an-rea/
posted by ヤス at 00:22| Comment(0) | 心理学理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月14日

自然連結性(Nature connectedness)とは

自然連結性(Nature connectedness)とは、個人が自分のアイデンティティーに、自然をどれだけ含ませるか、その度合いのことを言います。自然連結性とは、自然や自然が作ったもの(それが必ずしも良いものでなくても)への理解でもあります。自然連結性の特徴は、性格の特徴とも似ています。自然連結性は長期間に渡り、また多岐にわたる状況において一貫しています。シュルツは自然連結性には3要素があると言います。

認知的要素:自然連結性のコアであり、個人がどれだけ自然と統合されていると感じるか。
感情的要素:自然に対するいたわりの感情。
行動的要素:自然環境を保護しようというコミットメント。


この3要素が自然連結性を作り出し、自然と健康的な関係を作るのに必要なものです。自然と繋がっていると感じる人は、自然へのいたわりの気持ちが強く、自然を保護しようとします。近年の研究では、自然に触れることは、健康と幸福に様々な便益をもたらすと報告されています。

参照
https://en.wikipedia.org/wiki/Nature_connectedness
posted by ヤス at 01:07| Comment(0) | 心理学理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月03日

自己中毒(Ontological Addiction):自分のことに執着してしまい、それが不健康をもたらす

最近、僕の同僚でよく一緒に研究をするウィリアム・ヴァンゴードンが、中毒的に自分のことを考えてしまう「自己中毒(Ontological Addiction)」を提唱し、かなり注目を浴びています。僕もこの論文の作成には共著者として協力させてもらいました。

現在、科学は2つのタイプの中毒に焦点を当てています。一つは薬物やアルコールといった化学物質。もう一つは、ギャンブルなどといった行動。しかしながら、新たなタイプとして、自分自身やその存在に対する中毒があるのかもしれない。もちろん、多少の自己への興味は健康であり、必要だが、それが度を超えてしまうと私たちに害となる、とこの論文で述べています。


ここでイギリスの大手タブロイド社、ザ・サンの編集者が書いたアンケートをご紹介しましょう。これは単にこの人の思いつきなので、妥当性のチェックなどはしていませんが、科学的にアンケートを作成することを、ウィリアムと僕で現在進めております。

以下の質問に0から3で答えてください(0は「全くない」、1は「時々」、2は「しばしば(よく)」、そして、3は「いつも」)。

1.過去1ヶ月を振り返ってどれだけ頻繁に、自分の富や社会的地位がどうしたら上がるかを考えましたか?

富、物質、そして社会的地位は自己の感覚を高めるものです。これらが、自分は他人とは違うんだと感じさせることはよくあります。これらにあまりに執われてしまうと、他の人よりもよりビッグなもの、よりたくさんのお金、より高い地位が欲しいという衝動が、私たちを惨めにし兼ねません。


2.過去1ヶ月を振り返ってどれだけ頻繁に、何か親切なことをして後悔をしましたか?

他人に親切をするのは自分にとっても良いことです。しかし、自分を後に回す事に対して後悔の気持ちがあると、要注意です。そのような気持ちは、あなたが他の人を手助けする事が無駄だと思っていることを示しているのかもしれないからです。自分のケアは大事ですが、それだけをしていても、あなたのメンタルヘルスは蝕まれます。


3.過去1ヶ月を振り返ってどれだけ頻繁に、他人からの特定の事柄に執着するなというアドバイスを無視しましたか?

執着を手放すことは、中毒者にとって非常に難しいことです。自己中毒者にとって些細なことでも執着を手放すことは難しく感じられます。ある人と小さなことで揉め事を起こしたことはないですか?このような揉め事は、それがネガティブでもフィードバックとなります。


4.過去1ヶ月を振り返ってどれだけ頻繁に、自分が正しいと感じ、些細なことで傷つきましたか?

傷つくことは時々あることですが、いつでも傷ついていては、心の均衡が保てません。自己中毒の人は、強い意見を持ち、自分がいつも正しいと思い、自分と違う意見を唱える人を耐えることができません。彼らは同意が得られないと、侮辱されていると感じます。


5.過去1ヶ月を振り返ってどれだけ頻繁に、周りの人があなたをどう見ているか、評価されているかを考えましたか?

他人からどう見られているかを考えるのは自然で必要なことです。これは自分というアイデンティティーや、限界や境界線を築き上げる基礎になります。しかし、これに執着して、まるで全世界があなたの見ているかのように、他人の評価を気にすると悪影響です。孤独感を感じるかもしれません。


6.過去1ヶ月を振り返ってどれだけ頻繁に、他人と比べて劣等感や優越感を感じましたか?

劣等感を感じることは謙遜だと感じるかもしれませんが、それでも焦点はまだ自分にあります。つまり、他人と比べて良い、悪いに関わらず、こうした考え方では、まだ自分が中心にある事になります。他人のことを考える心のスペースが必要です。


7.過去1ヶ月を振り返ってどれだけ頻繁に、一人で過ごす時間を作らないように忙しくしていましたか?

自己中毒の人は、自分には、周りの人とは切り離した、個別の強いアイデンティティーがあると信じています。しかし、私たちは周りの人との関係性にのみ存在しています。このような概念は私たちのアイデンティティーについて考えさせます。そして、一人で時間を過ごす時に、心を悩ませることさえあります。


8.過去1ヶ月を振り返ってどれだけ頻繁に、世間体をよくしようとして無理に頑張って、疲れやストレスを感じたり、病気になりましたか?

こういう風に見られたいという欲求があなたを病気にしていませんか?自己中毒者は他人からよく思われたいという衝動が強いです。自分が病気になるほどそれが強いと、用心が必要です。


以上、8つの質問に0から3で答え、合計が24点中、何点になるかを計算します。

0〜8:自己興味
良いバランスです。他人に対して興味を持つスペースがあり、また、自分への関心もあります。


9〜16:自己愛
少し健康な範囲を超えるレベルの自己興味です。少し見方を変えてみる必要があります。


17〜24:自己中毒
自己中毒であるリスクが高いです。健康や人間関係が壊れる前に、一度、自分の感情や行動を見直してみましょう。


以上が自己中毒の簡単なアンケートです。統計学的なチェックも何もしていないので、妥当性はわかりませんが、面白い程度にできるものかもしれません。今後、僕たちはこのアンケートを科学的、統計学的に作成していこうと思っております。

参照
https://www.thesun.co.uk/fabulous/7870293/take-our-quiz-to-see-addicted-to-yourself/
posted by ヤス at 06:05| Comment(0) | 心理学理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月26日

貯め込み症(Hoarding ホーディング)の心理学

過度に物を貯め込むことを Hoarding と言います。ウィキペディアでは「ホーディング」として紹介されていますが、ここでは「貯め込み症」と呼ぶことにしましょう。貯め込み症は、人間関係や、心と体の健康に悪影響だと知られています。

貯め込み症はかつてはOCD(強迫性障害)の一部と分類されていましたが、現在それが見直されています。OCDの4人に1人が貯め込み症だと言われ、近い将来、溜め込み症が独立した症状になると見られます。


貯め込み症は必ず強い不安を伴い、時に認知症や統合失調症などの心の病気を伴います。近年の脳内イメージ実験では、貯め込み症患者の脳には、物質への強い愛着や、決断に対して強い不安を感じるなどといった特徴が見られたと報告されています。

貯め込みの行為は、不安を減らすと同時に、増やします。物が周りにあることで、外部の危険から守られていると感じる。それと同時に、家族や友人から乖離してしまいます。溜め込み症の人にとって、物を捨てることは、過度のパニックと不快感をもたらします。


ある人が、溜め込み症かどうかを見分けるには、貯め込む行動が他の日常的な生活行動に支障をきたさないかどうかです。その判断には以下のようなチェックリストがあります。

物が散らかったリビング
物が捨てられない
新聞、雑誌などを積み重ねて保存している
物の整理は、捨てるのではなく、場所を変えるだけ
不必要なものでももらっておく
日々の活動の決断ができない
物の整理ができない
完璧主義
所有物に過度の執着があり、他人に使わせるのが不快
他の人との交流が少ない、もしくは、無い



何が貯め込み症の原因となるかはまだ研究中ですが、貯め込み症の人にはいくつかの共通点があります。

年齢:強度の貯め込みは50才前後によく見られ、発症は11〜15才。この時期に壊れたおもちゃやもう使えないノートなどを貯め込んでいた。
性格:決断が難しく、よく不安を抱えている。
遺伝:十分な証拠は無いが、少しそのような傾向もあるかもしれない。
トラウマ:ストレスがかかったり、トラウマとなるような出来事があり、それを貯め込むという行為で対処している。
社会的な孤立:他人との交流が少なく、貯め込むことで不快感をしのぐ。

海外ではこの症状に関する多くのドキュメンタリーやテレビ番組があります。それだけ注目されている症状だと言えます。今後ますます研究が進んでいくと思われます。


参照
https://www.psychologytoday.com/gb/blog/hope-relationships/201409/the-psychology-behind-hoarding
posted by ヤス at 02:04| Comment(0) | 心理学理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする