2023年07月16日

デジタルヘルスにおける文化的適応

近年、患者向けのデジタル健康ツール(DHT: Digital Health Tool)の利用は飛躍的に伸びています。インターネットを通して、患者の健康に携わることができます。例えばアメリカでは、アメリカ食品医薬品局が近年多くのメンタルヘルスに関する治療を承認しています。DHTのアクセシビリティ(円滑にサービスを利用できる度合い)については、テクノロジーとインフラの観点から広く議論されてきました。ここで多くの人が問題視したのは、スマートフォンやブロードバンドインターネットへのアクセス、テクノロジーリテラシーについてでした。しかしインターネットが世界を相手にすることを考えると、さまざまな文化背景を持つ人がアクセスをするので「文化的な違い」も非常に大事なトピックではあるものの、あまり議論されていません。


スパンヘルらはシステマティックレビューを出版し、その中でメンタルヘルスに関わるDHTが患者に使ってもらうには「文化的適応」が大事だと述べました。彼らは、メンタルヘルスDHTの文化的適応を行った55の研究を対象とし、これらの研究から文化的適応に不可欠な17の要素を特定しました。これらの55の研究は平均して、17の適応基準のうち11.6を満たしていました。また、驚くべきことに、文化的適応の程度は、DHTの有効性やアドヒアランス(処方された量と頻度、DHTを使うこと)との間には関連性がなかったそうです。

スパンヘルらは、メンタルヘルスDHTを文化的に適応させるための17の基準を定義しました。そして、既存のDHT研究を見てみると、これらの基準の68%しか考慮されておらず、また、どのように文化的適応をしたのか、そのプロセスを詳細に記載している研究は42%しかなかったと報告しています。つまり、既存のメンタルヘルスDHT、その中でもそのエビデンスが報告されているものの多くが文化的適応をまだ十分にしていない可能性があるということです。

また、文化的適応の臨床的意義も過小評価されている可能性があります。文化的適応と患者のメンタルヘルス状態との間に関連性がないという発見は驚きです。というのも、対面でのメンタルヘルス介入を調べた数々の研究では、有効性は文化的適応の程度と比例関係にあるからです。DHT介入にも同じことが当てはまると仮説されましたが、そうではなかったようです。ここも新たな研究が必要な分野です。

最後に、裕福な国で作られたDHTを、貧しい国の人々に適用する際には、文化的適応が重要です。しかし、米国のように、多様な国の異なる集団を対象とする場合や、メンタルヘルス以外のDHTを適応させる場合にも、文化的適応が重要である可能性があります。


参照
https://www.nature.com/articles/s41746-021-00516-2
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2023年07月09日

メンタルヘルスに対して他国はどのように対応しているのか

メンタルヘルスは、すべての人の幸福にとって不可欠です。しかし、それを取り巻く態度は国によって異なります。その国特有のメンタルヘルス観は、その国独自の慣習、文化、課題などに影響されます。

例えば、日本では他の国と比べた特徴として、どうでしょうか?精神医療は広く提供されており、その大部分は国民健康保険でカバーされています。個人が負担するのは総費用の3割だけであり、医療機関も自由に選択できる。しかし他の国々と比較して、精神科療養病床の数が多く、脱施設化(メンタル疾患を抱える人をより社会的なアプローチでサポートする)で遅れているとされています。また、精神科療養病床の在院日数は1990年の約500日から2018年には約266日にまで減少したが、精神科入院患者数と在院日数のさらなる削減が求められています。

文化的にはメンタルヘルスの症状に対してスティグマ(偏見)が、精神医療サービスを利用する上での障壁となっていますが、精神医療サービスはより利用されていることも報告されています。


国の文化に適したメンタルヘルス対策
世界的に見て、メンタルヘルスの問題は、疾病負担(その症状によってどれだけ生活などにネガティブな影響があるか)が2番目に高い部類の症状とされています。また、メンタルの治療格差は、低・中所得国で特に大きいという問題もあります。つまり、それらの国でお金をあまり持っていない人は治療が受けられていない、ということです。

そして、メンタル問題へのアプローチは文化に大きく影響を受けています。これはプラスでもあればマイナスでもあります。

中国、日本、韓国などのアジアの文化には、自分の評判、尊厳、名誉を意味する「世間体」という概念があります。人々は、面目を失ったり、家族や地域社会に恥をもたらすことを恐れたりするため、メンタルヘルスの問題で助けを求められなかったり、自分の状態を他人に公表するのを避けるかもしれません。

ナイジェリア、ガーナ、ケニアなどのアフリカの文化では、魔術に対する信仰があり、これはスピリチュアルな力を使って危害や災難をもたらすことを意味します。メンタルの問題を守る人は、魔女や悪霊に取り憑かれていると非難され、家族や地域社会から追放されたりします。

メキシコ、ブラジル、アルゼンチンなどのラテンアメリカの文化には、「家族主義」という価値観があり、これは、家族の忠誠心、連帯感、支援に価値をおきます。だから、メンタルの調子が悪い人は、まず家族に相談をします。

ネイティブアメリカン、オーストラリアのアボリジニ、マオリ族などの先住民の文化では、身体的、精神的、感情的、スピリチュアルな側面を全部含めてその人の健康を見ようとします。メンタルの問題は、地域で知られている伝統的なヒーラーに相談をして、ヒーラーは特定の儀式をしたり、漢方薬を使用することがあります。

以下、国レベルで見ていきましょう。

インド
インドでは95%の治療格差があり、20人に1人しかメンタルに関する治療を受けていないと推定されています。この治療格差に関する調査では、メンタルヘルスに対する意識の低さ、悪い偏見(スティグマ)、差別、専門家の不足、助けを求める意識の低さ、サービス環境の不整備など、複数の要因が関与しています。

インドは国民のメンタルヘルス・ニーズに対処する手段として、国家メンタルヘルス計画(National Mental Health Programme: NMHP)を策定した最初の中低所得国の一つです。NMHPは、メンタルヘルスケアのインフラ整備という重要なニーズに取り組む手段として1982年に開始されました。2003年には、医科大学/総合病院の精神科を改良することと、州立精神病院の近代化が含まれました。

文化的な面では、インドでは精神的な問題はまず家族に相談されます。これで解決されることもあるかもしれませんが、家族内の理解やサポートのレベルが様々であるため、状況が悪化するまで治療を受けることができない場合があります。また、インドでは宗教指導者もよく利用されるサポートだとされます。これは特に農村部や地方都市で見られます。特定の宗教指導者はメンタルヘルス問題が、悪例によるものだ、といった思い込みを他者に強制しようとしますが、信者にとって、こうしたサポートを使わなくするのは難しく、現状ではメンタルヘルスの専門家が並行して治療を提供することが多いようです。

中国
多くの中国人がメンタルヘルスの治療を受けることに対して、いまだに否定的な態度を抱いていると言われます。このせいもあり、一般的な市民がメンタルヘルスの原因、治療法、予防法についてあまり理解していません。一般市民へのメンタルヘルス教育、治療をする人の訓練などがますます必要です。心理療法士など精神科以外のメンタルヘルス専門家の不足は著しく、14億人を超える人口に対し、その数はわずか5,000人だと言われています。

この背景としては、心理療法を認定する審議会や認定機関がないこと、心理学専攻の卒業生が十分な医療経験を積んでいないこと挙げられています。

進歩した部分もあります。近年、メンタルヘルスケアは主に精神科病院や総合病院の精神科で受けられるようになりました。2015年の段階で、国内には2936の精神保健サービス機関または施設があり、その内訳は、42.1%が精神科病院、43.2%が総合病院の精神科病棟、10%が地域およびプライマリーヘルスケアセンター、3.3%が精神科クリニック、1.5%がリハビリテーション施設だったそうです。

南アフリカ
南アフリカでは、特にコロナが発生してから、質の高い医療へのアクセスであったり、貧困、失業など、コロナ以前からの構造的不平等が悪化しました。この国では歴史的に、アパルトヘイトの終焉に向けて保健制度が直面した主要な課題として、資源の深刻な不平等配分があり、南アフリカ政府は法改正を通じてこれらに対処しようとしたが、ギャップは埋まらなかったそうです。南アフリカの公衆衛生予算全体のうち、メンタルヘルスが占める割合はたった5%だそうです。

精神疾患の治療に関しては、南アフリカ応用心理大学(South African College of Applied Psychology)が発表したデータによると、重度の精神疾患を訴える南アフリカ人のうち、治療を受けたことがあるのはわずか27%に過ぎないと推定されました。アパルトヘイト、エイズの流行、ジェンダーに基づく暴力など、南アフリカの歴史はさまざまな、長期的な社会的トラウマによって特徴づけられます。そして近年のコロナによって、気分障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、不安症、恐怖症などのメンタルヘルスの問題がさらに悪化しています。

強みとしては、文化的にメンタルヘルスの問題に対して、生物医学的なアプローチよりも、社会的、人権的なアプローチを取ることに好意的であることです。これに準じて、国のメンタルヘルスの方針においても、他分野の研究者(心理学、行動科学など)を含めた視野の広いものになる可能性があると考えられています。

コロンビア
南アフリカと同様、コロンビアにおいても、国民全体が暴力にさらされてきたことへの歴史的理解が不可欠です。なぜなら、60年にわたる武力紛争の歴史的影響であったり、高い殺人率、ギャング活動、ジェンダーに基づく暴力、家族内暴力は、この国のメンタルヘルスを理解する上で重要な要素だからです。

トラウマの影響を受けている人の数、アルコールの乱用や違法薬物の使用も多く報告されています。コロンビアの人口の約15%が紛争によって避難しており、彼らが暮らすコミュニティでは人々は対応が困難なニーズを抱えています。


スペイン
スペインではメンタルヘルスの問題を抱える人々に対して、コミュニティ・ケア・モデルが活用されています。その目的は、自律性、アクセシビリティの継続性、公平性の原則に従いながら、予防に重点を置いた、包括的なケアを提供することです。その結果、地域医療提供者は、学際的な方法(様々な分野の専門家を用いる方法)でプライマリケアチームと連携します。近年では、パーソンセンタードケア(人を中心とした治療)、ユーザーエクスペリエンス(ケア介入を使う人が何を経験しているか)、アセスメントモデル(どのように何を評価したらいいのか)のさらなる開発など、このモデルのさらなる改善が行われています。

しかしながら、スペインの人々もコロナ禍ではメンタル不調に苦しみました。スペインは観光業とレストラン業に依存した経済であること、また、人々は家族の絆とアウトドアライフを大事にすること、これらの要因から心のバランスを失いました。うつ病と不安の増加は顕著でした。

2021年は、それ以前の調査年(2005〜2016年のスコアは15〜17.72%)と比べて、メンタルヘルスの不調が55.92%増加したと報告されました。

コスタリカ
コスタリカは医療の質だけでなく、幸福度でもしばしば上位にランクされます。さらに、この国の非公式スローガンである「プーラ・ヴィーダ」(直訳すると「純粋な人生」)は、幸福、楽観主義、人生を全うすることに価値を置くという、この国の人々の典型的なライフスタイルと倫理観を表しています。したがって、この社会で強い価値観は、他人を思いやり、質の高い生活を維持することです。

この国の医療制度はCCSS(Caja Costarricense de Seguro Social)と呼ばれ、給与税で賄われています。その結果、コスタリカのほぼ全人口が、CCSS内で無料で医療サービスを受けることができます。コスタリカは多くの機関から、医療の充実さで、ラテンアメリカのトップ3に常にランクされていて、この制度の質の高さだと言えます。

しかしながら課題もあります。例えば、メンタルヘルス疾患の有病率は、十分に研究されておらず、文書化もされていません。さらに、特定の精神医療プログラムがないため、この種のケアはプライマリ・ケアを通じてのみ利用されています。したがって、メンタルヘルスケアの改善だけでなく、国の状況全体について、より研究が必要です。

メキシコ
メキシコではメンタルヘルスケアへのアクセスが問題となっていて、これが大きな治療格差につながっています。その理由として、インフラ未開発のため財源不足、資金不足、調整不足が生じ、医療システムから切り離された人たちが多くいること。その結果、軽度のメンタルヘルス疾病者の87.4%、中度の疾病者の77.9%、重度(双極性障害や統合失調症など)の疾病者の76.2%が治療を受けていません。さらに、これらのサービスでは訓練を受けたメンタルヘルスの専門家が不足している一方で、最寄りの保健センターまで行くための交通費の財源不足も問題となっています。

メキシコ内で、メンタルヘルスに対するスティグマは強く存在します。メンタルヘルスの治療について、重度の疾病者のみが受けるものだと考えている人は多いそうです。しかしながら、人々がオープンマインドな地域では、お互いに協力し合うことが日常であり、そういったコミュニティではメンタルヘルスの問題もスティグマの影響なく話をすることができているようです。

また、メキシコではその他のメンタルヘルスケアもよく使われます。クリスタル、カード・リーディングなど秘教的、形而上学的な実践も使われるそうです。しかし、メキシコの専門家たちはこうしたエビデンスのないケアについては、ネガティブな影響もあるので注意するように人々に警告をしています。

その他のメンタルヘルスケア

オンライン・プラットフォーム
メンタルヘルスのためのアプリ、ウェブサイト、ソーシャルメディアなどのオンラインプラットフォームの利用が増加しています。こうしたプラットフォームは、情報交換の他、人々につながりやサポートを提供してくれる利点があります。

海外の専門家からメンタルヘルスケアを受ける
もし自国でメンタルヘルスのケアを受けられないのであれば、海外の専門家からケアを受けられるかを考えることもできます。多くの国ではまだまだメンタルヘルスのケア提供は十分に整っていません。また、エビデンスに基づいたケアを実施することがリソース的に難しいこともあります。この際は、自分の国とその専門家との文化的な違いを配慮する必要はありますが、それでも自分により適したケアを受けられるのであれば、これも良い方法だと言えます。


メンタルヘルスは今や世界的な健康問題とされています。それだけに文化の違いを理解することがますます大事になりそうです。

参照
https://www.verywellmind.com/how-do-other-countries-deal-with-mental-health-7556304
posted by ヤス at 06:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・メンタルヘルス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年03月04日

デジタルヘルスを導入する際のポイント

医療にITを積極的に使うこと、デジタルヘルスが近年、様々な国の医療で注目されていますが、その導入において、何に注意する必要があるのか。こちらの記事を参照しました。

提言1 デジタルヘルスケアが通常治療に馴染んでいくためには、国と地域、両方のインフラに対するコミットメントと投資が必要である。

提言2 デジタルヘルスでは現在、いくつかの不確実性が存在する。これを緩和するために、個人健康データの所有権と管理、データプライバシー規制に関するガイダンスが必要である。

提言3 デジタルヘルスに関するサービスへの信頼と信用は重要。製品やサービスの認定や公的な承認は、デジタルヘルス・サービスの将来の成功展開の重要な決定要因である。信頼と信用を促進するための明確なシステムを導入する必要がある。

提言4 システムやセクターを超えたデジタルヘルスケアの拡大化を確実にするために、技術やサービスがお互いに情報・ノウハウ共有できることを優先させ、必要であればインセンティブを与える必要がある。

提言5 将来のデジタルヘルス・サービスは、英語を第一言語としない人や、感覚・身体・認知に障害のある人など、現在社会的・経済的に排除されている人たちがよりアクセスしやすいものにする必要がある。

提言6 デジタルヘルス&ウェルビーイング技術の真の可能性を完全に実現するためには、さらなる意識向上、消費者のスキルアップ、より手頃でアクセスしやすい技術に投資する必要がある。技術やサービスを推進する専門家や一般人の持つ感覚を意識する。

提言7 デジタルヘルスとウェルネスの製品とサービスのセキュリティと安全性に関する懸念に対処するため、デジタルヘルスのリスクとベネフィットについて、より活発な国民関与が必要である。

提言8 次世代の医療専門家のスキルアップと、よりデジタルな能力を確保することの双方に、より大きな重点を置く必要がある。デジタルヘルスケアを医療専門家の教育に組み込む必要がある。

提言9 消費者の健康と法定医療サービスにまたがる市場を支援するためのガイダンスが必要。将来の資金調達モデルやデジタルヘルスが一般市民の生活に取り込まれ使用されることを可能にするデータの共有、保存、管理モデルを構築する必要がある。

提言10 医療の安定性と長期計画の文化を促進する必要性がある。不安定さと絶え間ない変化は、投資の抑止力となり、デジタルヘルス分野での実装を妨げる可能性がある。

posted by ヤス at 23:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・メンタルヘルス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月28日

家族におけるスケープゴート(悪をなすりつけられる存在)

機能不全な家庭でよく見られるスケープゴートとは、その家族の問題のすべてをなすりつけられる子どものことです。スケープゴートという言葉は、聖書に由来し、レビ記の中で、イスラエルの民は、自分たちの罪をヤギに託し、荒野に放したことから、自分たちの村やコミュニティから邪悪なものを浄化するという比喩が込められています。つまり、スケープゴートとは、家族など、集団の悪事を引き受ける役割を担っているのです。

家族において、子供がこの役割を担わされた場合、その影響は生涯にわたってメンタルヘルスに悪影響を及ぼしかねません。スケープゴートにされた子どもは自分には、侮辱、ネグレクト、虐待が、ふさわしいと考えてしまいます。

親が特定の子供をスケープゴートとして選ぶ理由はさまざまです。出生順位、性別、容姿、知能など。親が子供をスケープゴートにするのは、親の精神的な機能不全に根ざしているため、根拠がないことが多いのです。例えば、感受性が強く、好奇心旺盛で、魅力的で、賢い子供がいたとして、これらの資質を持たない親は、そんな子供が自分の脅威だと感じ、スケープゴートにするということもあります。一方、自己愛が強い親は、家族に最も栄誉をもたらす子供を好み、家族の世間体を上げない子供をスケープゴートにするかもしれません。また、元恋人に似ている子どもや、元恋人を思い出させるような子どもを不当に扱う場合もあります。

スケープゴートになったり、お気に入りの子になったりすることは、決してその子の人間としての本質的な価値を決めるものではありません。スケープゴートを作る親は、親自身が機能不全の家庭で育った可能性があります。そして、自己愛性人格障害や境界性人格障害などの人格障害を持ち、他人を理想化したり、切り捨てたり、白黒思考に陥ったりしている可能性もあります。

残念ながら、子どもは、自分をスケープゴートにする親に問題があるのだと認識する人生経験を持っていません。愛情豊かで精神的に成熟した親は、子供を白黒と分別せず、誰にでも長所と短所があることを認識しますが、子供はそうしたことを知りません。

スケープゴートにされると、子どもの居場所がなくなります。家族から愛情を奪われ、家庭内で「悪い子」として認識されます。自分の長所は認められず、長く続く、感情的・心理的苦痛を味わうことになります。また、友人関係や恋愛関係、職場環境が虐待的で有害なものになる可能性もあります。

スケープゴートとされた子供は、家庭内でのいじめや虐待を当たり前に感じるため、危害が加えられる前に危険な人や場所を見抜くことが難しくなります。さらに、機能不全な家族ではガスライティング(被害者にわざと誤った情報を提示し、被害者が自身の記憶、知覚、認識を疑うよう仕向けること)が一般的であるため、虐待者の行動が一線を越えたときにそれを認識することが難しくなります。自分が敏感すぎるだけだとか、自分が経験している虐待は実際には起こっていないなどと言われて育ってきたかもしれません。親は、家族全員を平等に扱うと言いながら、お気に入りの子をあからさまに優遇し、スケープゴートの子どもに精神的あるいは肉体的な危害を加えていたかもしれません。

また、スケープゴートは、生まれたときや幼児期に受けた自分に対する有害なメッセージを内面化する傾向があるため、不利な立場に立たされることもあります。その結果、学校での成績が悪かったり、セルフ・ケアを怠ったり、危険な活動や行動をしたり、スケープゴートの称号に値するような行動を取ったりするなど、自己妨害や自傷行為に走ることがあります。また、大学を優秀な成績で卒業したり、職業上の栄誉を得たりと、人生のある面では優秀なスケープゴートとなる場合もあります。それでも、両親のように愛情のないパートナーに引き寄せられたり、依存症やセルフケアに苦しんだり、利用されたり搾取されることを許したりすることがあります。

スケープゴートになることは、子供にとって心が痛む経験ですが、場合によっては、より望ましい結果をもたらすこともあります。例えば、スケープゴートとなった子どもが、家族の中で受けた虐待がきっかけとなり、機能不全や人間関係の悪い家庭から抜け出すことがよくあります。つまり、スケープゴートになることで、有害な家庭をありのままに見ることができるようになる可能性があるのです。その結果、スケープゴートになった人は、元の家族から距離を置き、自分が経験した虐待から回復するための支援を受けることができるようになります。

さらに、スケープゴートは、自分が家族を持ったときに、虐待の世代間連鎖を断ち切ろうと決心することが非常に多いのです。そして、自分がされたような扱いを自分の子供にはしない、弱い立場の子供たちを支える存在になろうと誓うといったことがあります。

スケープゴートは、いじめ、貶し、不平等な扱い、虐待に満ちた子供時代から立ち直る必要があります。彼らは、「安全で安定した家庭で、両親や養育者の無条件の愛情を受けながら成長する」という経験を奪われたのです。むしろ、彼らの生活の中で機能不全の大人は、彼らを虐待の対象として選び出し、兄弟や他の家族と対立させたのです。

このような精神状態から回復しようとすると、一生かかるかもしれません。精神科医や心理療法士に相談することも解決策の一つです。また、機能不全な家族に関する書籍からも知見を得ることができます。古典的なものとしては、スーザン・フォワードの『毒になる親』、メロディ・ビーティの『共依存症 いつも他人に振りまわされる人たち』、リンジー・ギブソンの『SelfCare for Adult Children of Emotionally Immature Parents by Lindsay C Gibson』などがあります。



癒しの形は人それぞれですが、子供の頃にスケープゴートにされた人は、大人になってから家族とどう接するかを明確に決めなければなりません。

家族が虐待を続けたり、助けを求めようとしない場合、スケープゴートは自分の心の健康を優先し、親族と「接触しない」または「接触を少なくする」必要があります。接触禁止とは、その名の通りです。電話、メール、訪問、ソーシャルメディア上のやりとりも一切しないのです。

他の親族や友人、あるいは見知らぬ人から、有害な家族と連絡を取り続けるように説得される可能性があることを覚悟しておいてください。機能不全家族や、人格障害、薬物使用障害、その他の問題を抱えた親が子供に与える心理的打撃について、多くの人はあまり知りません。部外者は、自分が愛情深い両親を持ったから、他のみんなもそうだと思い込んでしまいがちです。

また、親の公人としての姿に戸惑う人もいます。例えば、聴衆の前で親が愛情を注いでいるように見える場合、この人はプライベートでは虐待しているかもしれないと考えると、認知的不協和が生じ、考えることを止めることがあります。しかし、あなたは自分の子供時代がどうであったかを知っているのですから、大人になっても親が虐待を続けるようであれば、接触を絶つことが最善の策かもしれません。

また、子供の頃にスケープゴートにされた人は、親族とどのような接触をするかという境界線をはっきりさせるという意味で、接触を控えるという選択をすることもあります。つまり、親族とどのような接触をするかについて、確固たる境界線を設けるのです。「接触しない」とは、家族とのコミュニケーションをテキスト、電子メール、電話のみに限定することかもしれません。家族と直接会うことを完全に止めたり、あるいはほぼ止めたり、あるいは祝日、結婚式、卒業式、出産、葬式などの特別な日に限定して訪問することを意味する場合もあります。

どのように前に進むかは、あなた次第です。メンタルヘルスのケアをする専門家を含むサポート・システムがあれば、自分にとって何が一番良いかを決めることができます。

参照
https://www.verywellmind.com/what-does-it-mean-to-be-the-family-scapegoat-5187038
posted by ヤス at 05:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・メンタルヘルス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月08日

自分に労りの心を向けること

「セルフコンパッション」、平たくいうと「自分に労りの心を向けること」は、健康や人間関係に役立ちます。自分への労りは、不安やうつのレベルを下げるなど、さまざまな健康に関する効果をもたらします。自分を労わることができる人は、自分が苦しんでいることを認識し、その時に自分に優しくすることで、不安や抑うつ状態を軽減します。自分への労りは鍛えることができます。


ハーバード大学の心理学者クリストファー・ガーマーは、著書『The Mindful Path to Self-Compassion』で、自分への労りを人生に取り入れるには、身体的、精神的、感情的、人間関係的、スピリチュアルな方法の5つがあると提案。そして、自分への労りを育むさまざまな方法を開発しています。以下に例を挙げます。

自分の体を労わる:健康的なものを食べる。寝転がって体を休める。自分の首や足、手をマッサージする。散歩をする。あなたが身体的によく感じることはすべて、自分への労りを発揮していることになります。

自分宛に手紙を書く:あなたが苦痛を感じる原因となった状況(恋人との別れ、失業、プレゼンの失敗)を思い出してみてください。誰のせいにもせず、その状況に対して、自分宛に手紙を書いてみましょう。自分の感情を認めましょう。

自分を励ます:何か悪いことや辛いことが自分に起こったとき、同じことが親友に起こったらどう言うかを考えます。そして、その思いやりのある反応を自分に向けてみましょう。

マインドフルネス:これは、自分自身の思考、感情、行動を、抑圧したり否定しようとせずに、偏見なく観察することです。鏡を見て、自分の姿が気に入らないとき、思いやりのある態度で、良いことと悪いことを受け入れることができます。


自分への労りは今、さまざまな研究や実践で注目されています。今後ますます開発が進められると思います。

参照
https://www.health.harvard.edu/healthbeat/the-power-of-self-compassion
posted by ヤス at 08:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・メンタルヘルス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする