2023年08月29日

異文化適応力とは(CQ=Cultural Intelligence Quotient)

今日の職場はかつてないほど多文化化しており、さまざまな背景を持つ人々と働くことが普通になっています。これによって多くの新しい機会が生まれましたが、同時にいくつかの課題も生じています。

文化の違いは、国籍や民族、信条の違いだけではありません。私たちの多くは多世代組織、つまり自分たちとはまったく異なる文化的前提や態度を持つ年下や年上の同僚が混在する組織で働きます。また、組織という大きな括りでなくても、例えば、部署やチーム間で文化的衝突が生じることもあります。


こうしたことから、私たちは多様な文化を理解し、その中で活動することに長けている必要があります。そこで登場するのが、異文化適応力(以下、CQ)です。

クリストファー・アーリー教授とスン・アン教授は、2003年に出版した著書で「CQ」という概念を紹介しました。両教授は、CQとは新しい文化環境に適応する能力だと定義しました。CQが高い人は、あらゆる文化に精通しているわけではなく、その代わり、新しい環境に自信を持って入り込み、観察と証拠に基づいて判断を下すスキルを持っている人です。このような人々は、馴染みのない行動や曖昧な行動を理解することに長けています。特定のグループ間で共有されている影響を認識しているため、特定の文化の影響を理解することができます。しかし、文化の影響は複雑で相互に関連していることも知っています。そして、文化が重要である一方で、ビジネス上の役割や個人の性格などの要因も、行動に強力な影響を与える可能性があることも認識しています。

例えば、あなたがイタリア人の株式ブローカーとミーティングをするとします。この人はイタリア人だから、株式ブローカーだから、あるいはイタリア人株式ブローカーだから、特定の行動をとるのでしょうか?それともミレニアル世代だからなのか、内向的だからなのか。これらすべての要素が組み合わさっている可能性が高いので、ひとつの側面に基づいて決めつけたり一般化したりするのは、正しいとは言えません。

CQの3つの要素
ハーバード・ビジネス・レビュー誌の論文では、CQを構成する3つの重要な要素を特定し、それを「頭」「体」「心」と名付けました。

頭とは、優れたCQが必要であるという知識と理解。この多くは観察と研究からもたらされます。しかし、新しい情報を収集するための戦略も必要であり、その戦略を用いて文化の共有理解を認識する能力も必要です。そうすることで、意思決定やコミュニケーションを適応させることができます。

身体とは、文化的情報を目に見える行動に変換すること。これは通常、あなたのCQが他者から見られる最も明確な方法です。身振り手振り、ボディランゲージ、そして文化的に重要な仕事を遂行する方法でそれを示すことができます。

心に関しては、高いCQを持つためには、自分に自信があり、正直な間違いを恐れず、新しい文化的状況に取り組むことが必要です。

CQの高い人は、これら3つの要素すべてを使って自分の行動を監視し、コントロールします。反射的に判断したり、固定観念にとらわれたりすることなく、どのような文化的環境でも何が起こっているかを解釈し、それに応じて自分の行動を調整することができるのです。

利点
CQを身につける利点は何でしょうか?

まず自分とは異なる人々と効果的に仕事をするのに役立ちます。海外で働く場合でも、国内で多様な文化を持つチームを率いる場合でも、CQがあれば、文化的な失態を犯して動揺や困惑を招いたり、プロジェクトや取引を台無しにしたりするのを防ぐことができます。

CQはまた、一緒に働くすべての組織の文化についての洞察を与えてくれます。相手の価値観や期待されていることを理解すればするほど、相手の文化的な「ルール」に従うことが上手になります。

ある研究によると、CQの高い労働者は、新しい文化的条件の中での生活や仕事に適応しやすいため、海外赴任でより成功することがわかっています。

しかし、拠点がどこであろうと、高いCQは、新しいグループの人々と信頼関係を築いたり、他部署の仕事のやり方に適応したり、部門横断的なチーム内で業務を遂行したりする必要がある場合に重宝されます。CQには、自己反省、オープンマインド、問題を予測する能力など、他の状況でも役に立つようなスキルも多く含まれています。

CQとEQ
CQはEQ(心の知能指数)と関連しているが、さらに一歩進んだ指標だと考えられます。EQの高い人は、人の感情、欲求、ニーズを察知し、自分の感情や行動が他人にどのような影響を与えるかを理解します。しかし、文化的要素を理解し、それに応じて自分の行動を適応させるには、さらなるスキルが必要です。CQを高めることで、異文化の人々の価値観、信念、態度に敏感になり、十分な情報に基づいた共感と真の理解を持って対応できるようになります。

文化的知性を磨く
2011年に出版された著書『The Cultural Intelligence Difference』の中で、デビッド・リバモア博士はCQの4つの実践的側面を強調しています。

CQ意欲
CQ知識
CQ戦略
CQ行動


リバモア博士によると、CQを高めるためには、これら4つの分野すべてを伸ばす必要があるといいます。

1. CQ意欲
意欲とは、異なる文化について学び、それに対応しようとする動機のことである。何が「社会」を形成しているのか、何が「社会」に影響を与えているのかに無関心な人は、その「社会」にうまく適応することはできません。しかし、新しい文化について学ぶ努力をすると、新しい可能性に対して心が開き始めます。違いを扱うことを難しいと感じる代わりに、違いは興味深く、エキサイティングなものと感じられます。

CQ意欲を強化するためには、新しい状況を探求するためにできることは積極的にしましょう。例えば;

異なるコミュニティや社会集団の人々と知り合いになる。
外国語を学び、異文化コミュニケーション能力を高める。
異文化のチームや組織、グループと触れ合うプロジェクトにボランティアとして参加する。

2. CQ知識
CQ知識とは、必ずしも特定の文化の細部まで知っていなければならないということではありません。その文化が一般的にどのように人々の行動や価値観、信念を形成しているかを知ることです。それを理解すれば、個々の行動の「ルール」がより理にかなったものになります。異なる文化の人々がどのように交流しているかを観察し、彼らのボディランゲージに注意深く注意を払いましょう。例えば、特定のジェスチャーや顔の表情は、人によってどのように異なる意味を持つだろうかと考えてみましょう。

その文化の歴史についても学びましょう。そうすれば、服装や食べ物に関する「ルール」を学ぶだけでなく、その背景にある理由も知ることができます。

文化的に多様なチームと仕事をする場合は、ウィベックの「文化の7つの側面」を使って、彼らの特徴を分析しましょう。また、ホフステードの「文化の次元」は組織文化を理解するのに役立つツールです。


3. CQ戦略
文化的な認識に立てば、学んだことを活かして、文化に配慮した堅実な戦略を立てることができます。こうした違いやその影響について考えることに慣れていれば、このプロセスはすぐに自然なものとなり、スムーズにプランニングできるようになります。この習慣を身につけるための方法として「文化が異なれば、なぜ物事の進め方が異なるのか」自分の思い込みを疑ってみることができます。

また現地のメディアやエンターテインメントに目を光らせ、「文化がどのように行動に影響を与えるか」について、新たな洞察を得ることもできます。文化に関する観察記録を日記につけ、成功したことだけでなく、不満に思ったことも書き留めておく。このメモは、当面の問題に対処し、長期的にCQを向上させることに集中するのに役立ちます。

などといった行動をとることができます。

4. CQ行動
CQの最後の要素は、あなたがどのように行動するか、特に物事が計画通りに進まなかったときにどのように反応するかに関するものです。あなたが働いている文化圏のビジネスエチケットをある程度研究していれば、正しい言動をするための準備は万端でしょうし、それが気づかれないこともないでしょう。しかし、問題や誤解が生じることもあるので、自分で考え、感情をコントロールできるようにしておくとよいでしょう。

また、自分のボディランゲージを監視し、適切であることを確認し、自分の言葉と異なるシグナルを発していないことも大事です。相手の行動や言動の理由が純粋に理解できない場合は、怖がらずに尋ねましょう。敬意を持ってそうすれば、たいていの人はあなたが相手の文化に関心を示していることを評価し、正しいことをしたいというあなたの気持ちを認めてくれると思います。

また、最善の努力を尽くしたにもかかわらず、何か間違った言動をしてしまったと思ったら、臆することなく謝りましょう。過ちから学び、次回は正しいアプローチをするよう心がけましょう。

参照
https://www.mindtools.com/aisl5uv/cultural-intelligence
posted by ヤス at 22:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理学理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年08月11日

患者のための研究助成(RfPB)

イギリス国立健康ケア研究所(NIHR)は「Research for Patient Benefit (RfPB)」という研究助成プログラムを運営しています。これは日本語にすると、「患者のための研究助成(以下、患者研究)」とでもなるでしょうか。患者研究は、健康、公衆衛生、社会福祉の研究に資金を提供するもので、健康サービスの幅広い課題を対象としています。このプログラムの目的は、NHSサービスの有効性を高め、費用対効果を提供し、患者に利益をもたらすようなテーマや研究手法に資金を提供することです。患者研究は、福祉ケアを提案のための研究企画募集(RfSC)も実施しています。

患者研究プログラムは、医療や福祉スタッフの日々の業務に関わる研究を支援します。研究の提案は、患者であったり、NHSや福祉の利用者といった人たちの健康や幸せに恩恵をもたらす明確な軌道を持つ必要があります。


対象
患者研究は何を助成するのか?
患者研究は研究者主導で行われ、研究テーマに関しては特定することはありません。福祉ケアの企画募集では、ケアサービスの利用者、介護者、一般市民のために、成人福祉ケアの提供方法を改善、拡大、強化するためのエビデンスを生み出す研究に資金を提供します。

期間と金額は?
個々のプロジェクトに提供される資金は、最大で50万ポンド、最大36ヶ月間です。フィージビリティ・スタディは25万ポンド以下、より下流の調査に役立つ可能性のある結果を生み出す提案は15万ポンド以下となります。

患者研究への申請に関する詳細は、資金限度額、資金調達、第3段階資金調達、フィージビリティ・スタディの申請、確立された介入の更なる評価、プロジェクト内スタディ(SWAP)の申請に関する補足ガイダンス・ノートを参照してください。福祉ケアの企画募集の資金提供には、上述したような企画の種類による限度額の変化は適用されませんのでご注意ください。

資金提供はいつ行われますか?
RfPBは年に3回、資金提供の機会があります。RfSCは年に1回です。具体的な日程はこちらをご覧ください。


助成内容
患者研究プログラムは以下のような研究を支援します:

・NHSサービスの提供と利用に関する研究

・介入の有効性と費用対効果の評価

・医療提供の代替手段の資源利用を調査する研究

・より大きな研究助成金を獲得するための実現可能性調査

・新たな介入、尺度、アウトカム尺度の開発と改良

・ニーズ調査、メソッドの開発、探索的研究を通じて、患者の健康とウェルビーイングの改善の可能性を探る研究

・エビデンスの統合とシステマティックレビュー



患者研究プログラムは以下を支援しない:

・実験室ベースの研究、基礎科学研究、実験医学

・動物実験または動物組織を用いた研究

・研究ユニットの設置や維持などのインフラストラクチャー

・より広範な汎用性がある場合を除き、サービス開発。注:新しいサービスの費用は本助成金から資金提供されない。

・監査または調査(ただし、これらの要素は総合的な研究調査の一部であれば可)

・今後の研究の優先順位設定



大きな選考基準としては以下があります:

提案された研究の質

NHSとその患者にとっての重要性と潜在的利益

申請によって提供される費用に対する価値



参照
https://www.nihr.ac.uk/explore-nihr/funding-programmes/research-for-patient-benefit.htm
posted by ヤス at 07:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理学実験 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年08月09日

スピン・バイアスとは研究歪曲

「スピン・バイアス」とは、意図的であれ、非意図的であれ、研究結果を歪曲解釈し、不当に有利または不利な結果を示唆することを言います。

利用可能な最善の臨床エビデンスは医療における意思決定に反映されるべきです。そのため臨床研究の結果は正確に報告され、提示されるべきです。フレッチャー(Fletcher)とブラック(Black)も「データはそれ自身を語るべきである」と指摘しています。

しかし、研究者は、「スピン」を加えることによって、自分(あるいは他者)の結果の解釈を歪め、結果が正当化されるよりも好意的に(あるいは不利に)捉えられるようにし、読者を惑わす誘惑に駆られることがあります。


例えば、仮説が正しくないのに正しかったと示唆したり、正しかったのに正しくなかったと示唆したり、メディアの注目を集める「インパクト」を示したり、研究利用者に影響を与えるマーケティングツールとして機能したりする、などがあります。

医療の研究におけるスピン・バイアスは、以下のような様々な形で現れることがあります:

研究デザインや分析が因果関係を正当化するものではないのに、因果関係を決めつけた言い回しをする。
二次エンドポイント(観察や介入を終える時点)への不当な注目。
統計的に有意な主要評価項目を強調し、統計的に有意でない主要評価項目を無視する。
統計的に有意でないエンドポイントについて、非劣性/同等性を主張する。
トレンドに言及して有意性を示唆する。
サブグループにおける統計的差異から有意性を推測する。
「治療の意図による分析」よりも「プロトコル通りのみ分析」を強調する。

EQUATORネットワークは、このような慣行は、健康研究の報告書の完全性、透明性、価値を低下させる誤解を招く報告だと述べています。

参照
https://catalogofbias.org/biases/spin-bias/
posted by ヤス at 08:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理学実験 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年08月08日

イギリス・医学研究審議会のパートナーシップ助成

パートナーシップ助成金制度は、多様な研究者グループ間の新しいパートナーシップを支援するためのものです。

助成金は、MRC(医学研究審議会)や他の助成団体から既に支援を受けている質の高い研究プログラムにさらに付加価値をつけるような、新しく価値のある共同研究活動や能力を確立するために提供されます。仮説に基づいた単独の研究プロジェクトに資金を提供するためのものではありません。

共同研究には以下のようなものが含まれます。

・ネットワーキングとパートナーシップ活動。学際的な共同パートナーシップやコンソーシアム(共同事業体)の設立、分野横断的な国内戦略や国際戦略の育成・実現、研究機関横断的な知識の共有や創造の実現。

・独自の共有資源を確立したり、その活用を支援するためのインフラ支援(スタッフ、システム、機器、セミナー、ワークショップなど)。

・専門的なデータやソフトウェアのプラットフォームやリソースなどのプラットフォーム活動。

・戦略的に重要な分野における研修、キャリア開発、能力開発。

・小規模で短期的刺激を与えるプロジェクトを指示することもあるが、具体的な研究質問がプロジェクトの中心となるべきではない。パートナーシップが中心である。そして、プロジェクトには様々な分野の専門家を用い、新たなパートナーシップの新たな能力を示すものでないといけない。


通常、成功するパートナーシップ助成金には、これらの要素が組み合わされています。ネットワーキング活動のみを支援する資金申請は却下されます。補助金の成功例として、パートナーシップ補助金のケーススタディをご参照ください。

パートナーシップ助成金は、最初の交付が終了するまでにはパートナーシップが出来上がり、その後の活動は別の方法で支援されることが期待されています。

参照
https://www.ukri.org/councils/mrc/guidance-for-applicants/types-of-funding-we-offer/partnership-grant/#contents-list
posted by ヤス at 23:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理学実験 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年08月05日

健康・福祉の提供研究(Health and Social Care Delivery Research)

医療・福祉の提供研究(HSDR)プログラムは、医療・福祉サービスの質やアクセシビリティを改善するために、厳密で適切なエビデンスを生み出すことを目的としています。HSDRはNIHRの資金援助を受けており、

スコットランドのCSO(Chief Scientist Office)
ウェールズのHRW(Health and Care Research Wales)
北アイルランドの公衆衛生局(Public Health Agency)
HSC研究開発部(HSC R&D Division)

が中心となって支えています。

助成を受けたプロジェクトはすべて、NIHR Journals Libraryに掲載されます。このオープンアクセス・リソースはオンラインで自由に利用でき、NIHRが資金提供した研究の完全かつ永続的な記録を提供します。

対象範囲
HSDRプログラムは、医療・福祉サービスを改善する可能性のある評価研究に資金を提供します。研究内容は、一次研究(質的および/または量的研究)、二次研究、エビデンスの統合の3種類です。典型的なプロジェクトは、ケアを提供する組織とケアの質に明確な焦点を当てた混合法の研究(質的・量的研究)です。また、患者、スタッフ、サービス利用者の経験にも焦点を当てる必要があります。プロジェクトには、サービスの利用、活動、アウトカムに関するデータやその分析が含まれることが多いです。様々な研究デザインが検討されるが、以下のような例があります:

脳卒中の設定に関する主要な実施研究
リスク層別化ツールの実用化試験
複合フレイルハブの評価
ソーシャルワーク実践における強みに基づくアプローチのエビデンス統合
意図的な看護回診の現実主義的評価
効果的な理事会ガバナンスに関する組織的研究
病棟における認知症入院患者の経験に関するエスノグラフィック研究

助成内容
HSDRは研究プロジェクトに資金を提供するものであり、プログラムや進行中の研究には資金を提供しません。プロジェクトには以下が必要です:
明確に定義された研究課題
明確な目的と目標
計画された方法論がどのようにこれらの目的を達成する可能性があるかの説明。


申請者は、研究結果がどのように統合され、サービス、学術、一般の聴衆にとって有用なアウトプットになるかを説明する必要があります。また、これらの研究成果をどのように伝え、インパクトを示すかについての計画も必要です。

本プログラムが資金を提供しないもの:
より広範な理論的アプローチや研究の枠組みを持たない、質やサービスの改善に関する研究。
介入やインパクトへの道筋のない、小規模な探索的研究や記述的研究。新たなサービスのニーズやパターンを理解するためにマッピング作業が必要な場合もあるが、関連するステークホルダーを巻き込みながら、有益な知識や国家的アクションにつながる明確な道筋が必要である。
フィージビリティ・スタディやパイロット・スタディは、それ自体では広範な学習を生み出さない。これは、単に大規模な試験や研究の先駆けではなく、複雑な介入策を改良し、異なる文脈でテストするための作業を意味する。
研究を支援するためのデータベースやリポジトリ。


参照
https://www.nihr.ac.uk/explore-nihr/funding-programmes/health-and-social-care-delivery-research.htm
posted by ヤス at 18:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする