2022年10月04日

実装とは改善のことである

研究者は研究費を申請する際に、研究を実施する計画や、その研究が実際にもたらすと予想される影響について説明するよう求められています。

このことを「翻訳ギャップ」と言います。翻訳ギャップには2つあり、1つ目は、研究から得られたアイデアをエビデンスに変換すること。2つ目のギャップは、そのエビデンスを日常の臨床実践(プラクティス)に取り入れることです。この取り入れることを、実装(インプリメンテーション)と言います。

過去20年ほどの間に、実施科学の分野は成長し、多くのモデルや理論、そして膨大な量の研究が生まれました。実装スペシャリストのクリスチャン・ハドソン(Kristian Hudson)は「実装の秘密」(パート1、2、3)という素晴らしい資料を作成しました。

実装科学が発展する裏には、多くの実験で生まれる知識が、現実の世界で物事を実施しようとする人々にとって、特に役に立たなかったからことがあります。臨床の現場で役立たせるには、現場の専門家やプラクティショナー、また、一般の人々の声が必要です。つまり、実装科学とは、実装社会科学だとも考えられます。


次に大事なポイントとして、フィデリティと機能のバランス。フィデリティ(忠実度)とは、複雑な介入がどこで使われようと、定められた方法で使われることです。機能とは、介入から得られる利益。フィデリティを維持しようとすると、機能が減少するケースは多々です。フィデリティを維持しようとするがために、プラクティショナーが現場で使えないと思ったり、デザインが乏しく、アンケートに参加しない患者がいたりします。医学研究評議会と健康財団が最近この問題に取り組み、フィデリティよりも機能を担保することの重要性を強調する声明を出したそうです。クリスチャンいわく「実装は改善」です。


参照
https://www.rdsblog.org.uk/real-world-implementation
posted by ヤス at 08:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理学実験 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年08月03日

実施科学:保健医療介入の経済評価に対する包括的なアプローチ

ヘルスケアの経済的影響を理解することは、異なる環境でも再現可能な効果的なプログラムを開発するために非常に重要です。ヘルスケアへの介入は、何よりもまず、個人とコミュニティの治療結果、そして、彼らの生活の質を向上させることを目的としています。しかし、多くの場合、コストに制限があり、その中でどれだけ効果的に実施するかが大事です。

ヘルスケア介入の経済評価では、備品や会議室といった目に見えるものから、スタッフや介護者の労働時間、医療利用、アウトカムといった数値化しにくいものまで、介入期間中のコストをいかに正確に見積もるかが焦点となります。


経済評価の基本要素を紐解く

医療介入は、多くの場合、複数の利害関係者や大きな影響を伴うため、実施チームにとって、誰がプロセスの改善から最も恩恵を受けるか、そして誰がその費用を負担するかを理解することが極めて重要になります。

経済評価の最初のステップは、介入を行う意思決定者、患者、医療システム、コミュニティなど、実施に関係する人たちを特定することです。そして、かかる費用(コスト)と実施がもたらす便益(ベネフィット)をそれぞれの視点から考える必要があります。


そのために以下のような質問があります。

どのようなタイムラインを考えているのか?

介入はどれくらいの期間継続されるのか?

時間の経過とともにコストは変化するか?

どのような人々が参加し、どのような環境で介入が行われるのか?

病院、診療所、コミュニティ、家庭での実施にかかるコストはそれぞれどれくらいか?

どのような成果を測定すべきか:経済的な節約、臨床的成果、時間短縮、患者満足度?

対象となるアウトカムが複数ある場合、どのように順位づけるか?

スタッフ、リソース、消耗品にかかる費用は?

助成金は利用可能か?その場合、介入を別の場所で再現する場合、同じ助成金が提供されるか?

などなど。

経済評価には、最良のシナリオ、中間的なシナリオ、そして、最悪のシナリオを想定したコスト見積もりを作成することがおすすめです。また、実施チームは、プロセスマップを作成することによって、これらの潜在的な費用を明確に理解することができます。

食事の用意について考えることが、比喩として使えます。そのプロセスには、材料や消耗品も含まれますが、レシピを探し、調理をし、後片付けをするための時間やコストもあります。パートナーや子供に手伝ってもらう場合、彼らの時間コストも含まれなければなりませんし、彼らの貢献が、あなたの時間節約となったり、料理の品質向上になることも計算する必要があります。


計画が確立されると、実施チームは、医療介入にかかる費用において、その主要分野について考えることができます。考慮すべき主な分野は、スタッフ配置、スペース、消耗品、医療やサービスの利用、スタッフの時間です。

スタッフ配置

積極的な介入段階におけるスタッフの労働時間を計算することは重要ですが、プログラム開始前にスタッフのトレーニングの必要性を検討することも重要です。また、実施チームは、関与するスタッフのさまざまな技能レベルや資格の有無を考慮する必要があります。またそれらのランクや段階によって、時間にかかる金額も異なるので、それらをそれぞれ正確に計算します。

スペース

ワークスペースの確保も大事です。復員軍人委員会で行われた実装研究では、スペース費は全体の約55%でした。

消耗品

介入手法によっては、技術、教材、医療用品、その他の物理的な資産に多額の出費を必要とする場合があります。多くの場合、これらの資材にかかる費用は比較的簡単に計算できますが、実施チームは、さまざまな規模で取り組む場合の費用の変動を頭に入れておくべきです(例:100冊教材を作成する場合と、1万冊作成する場合の違いなど)。

医療やサービスの利用

エビデンスに基づく介入のほとんどは、医療サービスまたは社会サービスの利用を伴うものであり、実施する際の戦略によって変化する可能性があります。

スタッフの時間

人の時間の価値を計算することは、経済評価において最も困難な部分だと考えられます。無給の介護者(家族介護者など)、高齢者や障害者など、従来の労働力ではない特定の集団と仕事をする場合、生産性の測定は簡単ではありません。


経済評価は、医療介入の費用と影響を理解するために極めて重要です。医療介入を現場で実施する際の、予想外の出費を注意深く詳述することで、実施チームは現実において、エビデンスのある介入法の有効性をよりよく示すことができるのです。


参照
https://academyhealth.org/blog/2021-07/implementation-science-taking-comprehensive-approach-economic-evaluation-health-interventions
posted by ヤス at 23:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 心理学理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月28日

家族におけるスケープゴート(悪をなすりつけられる存在)

機能不全な家庭でよく見られるスケープゴートとは、その家族の問題のすべてをなすりつけられる子どものことです。スケープゴートという言葉は、聖書に由来し、レビ記の中で、イスラエルの民は、自分たちの罪をヤギに託し、荒野に放したことから、自分たちの村やコミュニティから邪悪なものを浄化するという比喩が込められています。つまり、スケープゴートとは、家族など、集団の悪事を引き受ける役割を担っているのです。

家族において、子供がこの役割を担わされた場合、その影響は生涯にわたってメンタルヘルスに悪影響を及ぼしかねません。スケープゴートにされた子どもは自分には、侮辱、ネグレクト、虐待が、ふさわしいと考えてしまいます。

親が特定の子供をスケープゴートとして選ぶ理由はさまざまです。出生順位、性別、容姿、知能など。親が子供をスケープゴートにするのは、親の精神的な機能不全に根ざしているため、根拠がないことが多いのです。例えば、感受性が強く、好奇心旺盛で、魅力的で、賢い子供がいたとして、これらの資質を持たない親は、そんな子供が自分の脅威だと感じ、スケープゴートにするということもあります。一方、自己愛が強い親は、家族に最も栄誉をもたらす子供を好み、家族の世間体を上げない子供をスケープゴートにするかもしれません。また、元恋人に似ている子どもや、元恋人を思い出させるような子どもを不当に扱う場合もあります。

スケープゴートになったり、お気に入りの子になったりすることは、決してその子の人間としての本質的な価値を決めるものではありません。スケープゴートを作る親は、親自身が機能不全の家庭で育った可能性があります。そして、自己愛性人格障害や境界性人格障害などの人格障害を持ち、他人を理想化したり、切り捨てたり、白黒思考に陥ったりしている可能性もあります。

残念ながら、子どもは、自分をスケープゴートにする親に問題があるのだと認識する人生経験を持っていません。愛情豊かで精神的に成熟した親は、子供を白黒と分別せず、誰にでも長所と短所があることを認識しますが、子供はそうしたことを知りません。

スケープゴートにされると、子どもの居場所がなくなります。家族から愛情を奪われ、家庭内で「悪い子」として認識されます。自分の長所は認められず、長く続く、感情的・心理的苦痛を味わうことになります。また、友人関係や恋愛関係、職場環境が虐待的で有害なものになる可能性もあります。

スケープゴートとされた子供は、家庭内でのいじめや虐待を当たり前に感じるため、危害が加えられる前に危険な人や場所を見抜くことが難しくなります。さらに、機能不全な家族ではガスライティング(被害者にわざと誤った情報を提示し、被害者が自身の記憶、知覚、認識を疑うよう仕向けること)が一般的であるため、虐待者の行動が一線を越えたときにそれを認識することが難しくなります。自分が敏感すぎるだけだとか、自分が経験している虐待は実際には起こっていないなどと言われて育ってきたかもしれません。親は、家族全員を平等に扱うと言いながら、お気に入りの子をあからさまに優遇し、スケープゴートの子どもに精神的あるいは肉体的な危害を加えていたかもしれません。

また、スケープゴートは、生まれたときや幼児期に受けた自分に対する有害なメッセージを内面化する傾向があるため、不利な立場に立たされることもあります。その結果、学校での成績が悪かったり、セルフ・ケアを怠ったり、危険な活動や行動をしたり、スケープゴートの称号に値するような行動を取ったりするなど、自己妨害や自傷行為に走ることがあります。また、大学を優秀な成績で卒業したり、職業上の栄誉を得たりと、人生のある面では優秀なスケープゴートとなる場合もあります。それでも、両親のように愛情のないパートナーに引き寄せられたり、依存症やセルフケアに苦しんだり、利用されたり搾取されることを許したりすることがあります。

スケープゴートになることは、子供にとって心が痛む経験ですが、場合によっては、より望ましい結果をもたらすこともあります。例えば、スケープゴートとなった子どもが、家族の中で受けた虐待がきっかけとなり、機能不全や人間関係の悪い家庭から抜け出すことがよくあります。つまり、スケープゴートになることで、有害な家庭をありのままに見ることができるようになる可能性があるのです。その結果、スケープゴートになった人は、元の家族から距離を置き、自分が経験した虐待から回復するための支援を受けることができるようになります。

さらに、スケープゴートは、自分が家族を持ったときに、虐待の世代間連鎖を断ち切ろうと決心することが非常に多いのです。そして、自分がされたような扱いを自分の子供にはしない、弱い立場の子供たちを支える存在になろうと誓うといったことがあります。

スケープゴートは、いじめ、貶し、不平等な扱い、虐待に満ちた子供時代から立ち直る必要があります。彼らは、「安全で安定した家庭で、両親や養育者の無条件の愛情を受けながら成長する」という経験を奪われたのです。むしろ、彼らの生活の中で機能不全の大人は、彼らを虐待の対象として選び出し、兄弟や他の家族と対立させたのです。

このような精神状態から回復しようとすると、一生かかるかもしれません。精神科医や心理療法士に相談することも解決策の一つです。また、機能不全な家族に関する書籍からも知見を得ることができます。古典的なものとしては、スーザン・フォワードの『毒になる親』、メロディ・ビーティの『共依存症 いつも他人に振りまわされる人たち』、リンジー・ギブソンの『SelfCare for Adult Children of Emotionally Immature Parents by Lindsay C Gibson』などがあります。



癒しの形は人それぞれですが、子供の頃にスケープゴートにされた人は、大人になってから家族とどう接するかを明確に決めなければなりません。

家族が虐待を続けたり、助けを求めようとしない場合、スケープゴートは自分の心の健康を優先し、親族と「接触しない」または「接触を少なくする」必要があります。接触禁止とは、その名の通りです。電話、メール、訪問、ソーシャルメディア上のやりとりも一切しないのです。

他の親族や友人、あるいは見知らぬ人から、有害な家族と連絡を取り続けるように説得される可能性があることを覚悟しておいてください。機能不全家族や、人格障害、薬物使用障害、その他の問題を抱えた親が子供に与える心理的打撃について、多くの人はあまり知りません。部外者は、自分が愛情深い両親を持ったから、他のみんなもそうだと思い込んでしまいがちです。

また、親の公人としての姿に戸惑う人もいます。例えば、聴衆の前で親が愛情を注いでいるように見える場合、この人はプライベートでは虐待しているかもしれないと考えると、認知的不協和が生じ、考えることを止めることがあります。しかし、あなたは自分の子供時代がどうであったかを知っているのですから、大人になっても親が虐待を続けるようであれば、接触を絶つことが最善の策かもしれません。

また、子供の頃にスケープゴートにされた人は、親族とどのような接触をするかという境界線をはっきりさせるという意味で、接触を控えるという選択をすることもあります。つまり、親族とどのような接触をするかについて、確固たる境界線を設けるのです。「接触しない」とは、家族とのコミュニケーションをテキスト、電子メール、電話のみに限定することかもしれません。家族と直接会うことを完全に止めたり、あるいはほぼ止めたり、あるいは祝日、結婚式、卒業式、出産、葬式などの特別な日に限定して訪問することを意味する場合もあります。

どのように前に進むかは、あなた次第です。メンタルヘルスのケアをする専門家を含むサポート・システムがあれば、自分にとって何が一番良いかを決めることができます。

参照
https://www.verywellmind.com/what-does-it-mean-to-be-the-family-scapegoat-5187038
posted by ヤス at 05:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・メンタルヘルス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月08日

自分に労りの心を向けること

「セルフコンパッション」、平たくいうと「自分に労りの心を向けること」は、健康や人間関係に役立ちます。自分への労りは、不安やうつのレベルを下げるなど、さまざまな健康に関する効果をもたらします。自分を労わることができる人は、自分が苦しんでいることを認識し、その時に自分に優しくすることで、不安や抑うつ状態を軽減します。自分への労りは鍛えることができます。


ハーバード大学の心理学者クリストファー・ガーマーは、著書『The Mindful Path to Self-Compassion』で、自分への労りを人生に取り入れるには、身体的、精神的、感情的、人間関係的、スピリチュアルな方法の5つがあると提案。そして、自分への労りを育むさまざまな方法を開発しています。以下に例を挙げます。

自分の体を労わる:健康的なものを食べる。寝転がって体を休める。自分の首や足、手をマッサージする。散歩をする。あなたが身体的によく感じることはすべて、自分への労りを発揮していることになります。

自分宛に手紙を書く:あなたが苦痛を感じる原因となった状況(恋人との別れ、失業、プレゼンの失敗)を思い出してみてください。誰のせいにもせず、その状況に対して、自分宛に手紙を書いてみましょう。自分の感情を認めましょう。

自分を励ます:何か悪いことや辛いことが自分に起こったとき、同じことが親友に起こったらどう言うかを考えます。そして、その思いやりのある反応を自分に向けてみましょう。

マインドフルネス:これは、自分自身の思考、感情、行動を、抑圧したり否定しようとせずに、偏見なく観察することです。鏡を見て、自分の姿が気に入らないとき、思いやりのある態度で、良いことと悪いことを受け入れることができます。


自分への労りは今、さまざまな研究や実践で注目されています。今後ますます開発が進められると思います。

参照
https://www.health.harvard.edu/healthbeat/the-power-of-self-compassion
posted by ヤス at 08:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・メンタルヘルス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月13日

腸と脳の関係

腸内に生息するバクテリアなどの細菌が、脳の病気になるかどうかなど、脳に影響を与える。100年以上前に、私たちは細菌が腸内、口や鼻、皮膚に生息していることを発見しました。人類が誕生して以来、ずっとそうしてきた。そして、ごく少数の種類の細菌が腸の病気を引き起こすこともわかってきました。


特にこの15年の間に、腸内細菌は私たちの体の細胞に影響を与える物質を作り出すことができることが分かってきました。その物質の中には、私たち自身の細胞が作り出す物質と類似していたり、同じであったりするものがあるからです。

では、腸内細菌はどのように脳に影響を与えるのでしょうか?

食べ物の栄養素が腸から血液に移動するのと同じように、腸内細菌が作った物質が血液に入ることがあります。また、脳と腸をつなぐ神経がありますが、腸内細菌はその神経を通じて脳に信号を送ることができます。さらに、腸内細菌は腸の壁にある免疫系細胞を刺激し、免疫系細胞は神経を通して脳に信号を送ることができます。

過去10年の研究により、腸内細菌が私たちの感情や認知能力に影響を与える可能性があることが分かっています。例えば、ある細菌はオキシトシンを作ります。オキシトシンは私たち自身の体内で作られるホルモンで、社会的行動の増加を促します。また、ある細菌は、うつ病や不安神経症の原因となる物質をつくります。また、ストレス下で私たちを落ち着かせる物質を作る細菌もいます。

最後に、腸内細菌は、アルツハイマー病、パーキンソン病、自閉症など、特定の脳疾患に対する脆弱性にも影響を与えることが明らかになっています。例えば、パーキンソン病の人の脳に見られるシヌクレインという物質は、腸内細菌によって作られ、腸から神経を伝って脳に到達することができます。

まだまだ新たな発見が必要な分野ですが、非常に興味深いと感じました。

参照
https://www.health.harvard.edu/staying-healthy/whats-the-connection-between-the-gut-and-brain-health?
posted by ヤス at 18:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・メンタルヘルス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする